教育

2025.06.06 15:15

成績選抜禁止、「国立オンリー」だった国スウェーデンに私立の無料人気チェーン校登場

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子どもを「分類しない」理由

では、あえて子どもを分類しないということには(政治的意図以外に)どういうメリットがあるのだろうか。1つ思いつくのは、実際の社会というのは様々な人が集まっている場であって、子どもの頃から現実の多様性の中で生きていかせるのがスウェーデンという国が目指していることだということだ。

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各クラスにはじっと座っていられない子だけでなく(その点については別途「ADHDが1人いる」グループが問題解決で高得点。多動脳の知られざる能力で詳しく触れている)、外国生まれあるいは両親ともスウェーデン語を母国語としない親をもつ生徒が26%(2024) いる。そんな日常を暮らしていると、地球が小さくなったかのように身近に感じられるのだ。

娘の場合、10年ほど前にシリアで大勢の難民が発生したときに当時小学校2年生のクラスにスウェーデン語の話せないシリア人のお子さんが2人入ってきた。中学校の親友たちは出身地がスーダンやバングラディシュで、それらの国々の不穏なニュースを聞くと、遠い国で起きている他人事だとは思えない。

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もっと前にスウェーデンにやってきた人たち、たとえば戦後ならフィンランド人やイタリア人、90年代にはユーゴスラビア紛争でバルカン諸国から多くの人がやってきたが、すでに2世代目、3世代目となっていて、昔々からスウェーデンに暮らしてきた先祖しかもたない子というのは、あくまでわたしの体感だが、クラスの半分にも満たないのではないだろうか。

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そもそも今のスウェーデン王家の始祖であるカール14世ヨハンはフランスの平民階級出身だ。日本人にはなじみのないラマダン(断食)やヒジャブも当たり前の日常の一コマになり、人口10万人の小さな地方都市に暮らしているのに、東京で暮らしていたときよりもインターナショナルな気がする。

子どものうちから国際感覚が身につくというメリットは良いとして、そんなクラスを導く先生はやはり大変だろうと思う。

国としても教育現場における対策を常に考えているが、近い将来もっとも大きな転機となりそうなのが「3歳以上の保育園の義務化」だ。これまでも3歳以上の児童が週に15時間無料で保育園に通える「権利」があったが、子どもを保育園に通わせる習慣のない文化から来ているご家庭だと、集団生活を体験せずにいきなり小学校に入れるということがあった。しかし幼いうちからスウェーデン語やスウェーデン社会に接していないと学校の成績に悪影響があり、将来の就職にも不利になるということが調査でも判明している。

親の選択で保育園に通わなかったせいで、子どもが一生ハンデを負うことになるという現実――社会全体で子どもを育てるという気概の強いスウーデンではそこまで国が介入すべきだという考え方になるのだろう。

久山葉子(くやま・ようこ)◎スウェーデン語文学翻訳者、エッセイスト。 高校時代に1年間AFSでスウェーデンに留学。東京のスウェーデン大使館商務部勤務を経て、2010年に日本人家族3人でスウェーデンに移住。現地の高校で日本語を12年間教えた。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』、訳書に『スマホ脳』『多動脳』『サルと哲学者』『メンタル脳』『最適脳』『にゃんこパワー』など多数 。また、スウェーデンの高校で11年日本語を教えながら、ストックホルム大学ですでに教師として勤務している人向けの教職取得コースに通った。

文=久山葉子 編集=石井節子

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