私立の学校ができたのはなんとようやく1992年!
驚くかもしれないが、スウェーデンで実質的に普通の人が行ける私立の学校ができ始めたのは1992年と、ごく最近だ。これは1920年代以来初めて政権を握っていた中道右派の穏健党が行った教育改革によるもので、「選択する権利」を謳ったものだった(それ以前も有料のエリート校やインターナショナルスクールはあったが、庶民には無縁の世界だった)。
その頃には学校を管轄する責任が国からコミューンと呼ばれる基礎自治体に移っていて(1989年)、各学校は生徒1人当たりの決まった金額に人数をかけた額を自治体から受け取って、学校を運営していた。1992年の改革で私立の学校にも自治体が同じようにその金額を出すことになり、生徒は公立でも私立でも無料で通うことができる。その結果、私立校は人気を博し、私立校に通う子どもが1992年以前はほぼゼロだったのが、2024年には全生徒の18% が私立校に通うまでになった。
私立の人気チェーン校、エンゲルスカ・スコーラン
私立校はそれぞれに特徴を出すことで生徒を集めている。たとえば人気なのがエンゲルスカ・スコーランという私立校のチェーンで、先生のほとんどがネイティブの英語スピーカーで、授業の多くが英語で行われる。人気沸騰してあっという間にスウェーデンで46校を展開するまでになったが、この私立校に通うのももちろん無料だ。
その一方で、スウェーデンの義務教育に受験はない。成績で子どもを選抜することは法律で禁じられているので、私立でもテストや面接を行って優秀な生徒だけを採ることはできない。ではどうやって人気校に入れるかというと、あくまで「申し込んだ順」だ(例外として、すでにきょうだいがその学校に通っている場合は、優先されるというのがあるが)。
つまり私立であっても、成績のいい子だけを集めてレベルの高い授業をするということはできない。個人的には正直言って、日本のように子どもを成績で分けて、同じようなレベルの生徒を1クラスに集めて教えたほうが、先生は楽だろうと思ってしまう。しかしスウェーデンでは現在でもどこのクラスでも様々な学習レベルの子どもが集まっている。当初の理想どおり、「どの町の、どの学校の、どのクラスに行っても同じ」なのだ。
しかし「まったく同じ」「クオリティの高い教育」が受けられるかどうかは年々怪しくなってきている。スウェーデンでもじっと座っていられなくてADHDの診断が下りる子どもは増えているし、昔ほど先生(というか大人全般)が厳しくなくなったこともあってか、学級崩壊的なことが起きている。それでも、静かに座っていられる子や成績の良い子だけを集めてクラスをつくるという発想はいまだにない。


