人類は「ADHD傾向の人が群れにいたから繁栄できた」
それでは別々のクラスに分けて、出会わないように生きていけばうまくいくのだろうか。個人レベルではそういうケースもあるかもしれないが、人間という種全体で考えると「ADHDの傾向の高い人が群れにいたからこそ、ここまで繁栄できた」という。
『多動脳』でそれを裏づける、興味深い研究結果が紹介されている。子どもたちを少人数のグループに分けて問題解決をさせたところ、ADHDの子どもが1人含まれているグループはかなりの確率で問題を解決できたのに、ADHDの子どもがいないグループは1グループも解決できなかったという結果になったのだ。
お互いに違うからこそ、互いの特質を補い合って、1人では出せない結果を出せる。人間はこれまでもそうやって群れで生きてきて、種として絶滅せずに生き延び、ここまで地球上で繁栄したということだ。
しかしその事実を知っても、クラスが騒がしいという現実は変わらない。どうすれば教育現場の現状を改善できるのだろうか。『多動脳』では「学校のクラスを少人数化する」というのを1つアドバイスとして挙げている。これに反論する現役の先生は、少ないのではないだろうか。
同時に、「そうは言われても、クラスを今の半分のサイズにする予算は学校にない」という反応が返ってくるのは明白だ。ただ日本もスウェーデンも少子化傾向にあり、それに加えて不登校も増えている。このまま教育を受ける子どもが減っていくがままにしていていいのだろうか。国の将来や年金を考えても、今いる子どもに予算をかけずにどうするのだろうかと思ってしまう。

久山葉子(くやま・ようこ)◎スウェーデン語文学翻訳者、エッセイスト。 高校時代に1年間AFSでスウェーデンに留学。東京のスウェーデン大使館商務部勤務を経て、2010年に日本人家族3人でスウェーデンに移住。現地の高校で日本語を12年間教えた。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』、訳書に『スマホ脳』『多動脳』『サルと哲学者』『メンタル脳』『最適脳』『にゃんこパワー』など多数 。


