そして、さらに飛躍を遂げたのが、すでに売却しているが、2007年の初のM&A案件であるドラッグイレブンの買収だった。九州でも有数のドラッグストアグループの交渉担当となった唐池は、「当時、売り上げが2000億円をちょっと上回るぐらいのなかで、いきなり500億円増えるわけですからね。社員も驚いたと思います。ところが、思わぬところから反対の声が上がったんです。当時、国が100%株式を保有していたので、M&Aの資金があるなら、鉄道の安全投資にまわしなさいと言われました。何度も説明して理解してもらいましたが、上場しないと成長することもできないのかと痛感した出来事でもありました」。つまり、このM&Aが16年の株式上場という未来への道筋をつけることになり、現在に続くM&A戦略の原点にもなる。三島JRへの発奮もそうだが、JR九州という会社はつくづく逆境をバネにする。
事業成功のカギはエースを投入
M&Aで未来を買ったことで、JR九州は一地方企業から九州を代表する優良企業へと変貌し、その夢も社外まで巻き込んだものに変わっていく。その代表格が「ななつ星in九州」だ。唐池がビビッときてからすでに20年以上もたっていたが、その想いは衰えるどころか、むしろ、高まっていた。そう、09年6月23日に唐池が4代目社長に就任したからである。
就任1週間後、さっそく鉄道事業本部の幹部を会議室に集めた。「みんな聞いてくれ。会社発足以来、我々の悲願は九州新幹線の全線開通だった。でも、2年後に新幹線ができたら、もう夢はないのだろうか。在来線に夢はないのだろうか。そんなことはないだろう、もう一度、夢をもとう。世界一豪華な寝台列車を走らせようじゃないか」と、熱く語ったという。
今度こそ、この提案に皆が心を躍らせると思った。しかも発言するのは副課長でなく社長である。ところが、会議室には唖然とした表情だけが並んだ。「なかでも古宮洋二運輸部長(当時)は、『社長、いい加減にしてくださいよ。2年後に全線開通する新幹線の準備で大わらわなんですよ。豪華列車なんて社長の道楽みたいなことを言わんでください』と言うわけです」
列車運行の要である運輸部長がまったく乗り気じゃないどころか、反対にまわっている。唐池は思案の末にひとつの決断を下す。「数カ月後の人事異動で、『古宮さん、あなたは今日からななつ星チームのリーダーです』と(笑)。すると、彼は仕事師ですから、自分の与えられた仕事に全力を尽くしていくんです。新幹線開通に全力を注いだように、ななつ星のリーダーとして、どんどん問題、課題を解決してくれました。私の社長時代にやった人事のなかで最高の人事だったですね」と語る。ちなみに、その古宮部長が今のJR九州の社長である。


