ウクライナは、かつて盛んだった麻産業を復活させるべく、国内最大の産業用麻加工施設を立ち上げた。
ウクライナ経済省は先週、北部ジトミル州に拠点を置く麻加工企業マリジャニが、国内最大となる麻加工施設の稼働を開始したと発表した。この施設は、戦争で荒廃した同州のマリジャニ工業団地にある。同社はかつての亜麻(あま)工場を年間最大1万4000トンの麻を処理できる近代的な加工施設に改修。国内と欧州の市場向けに麻繊維を供給することを見込んでいる。改修の初期段階には2000万ドル(約29億円)以上が投資された。
産業用の麻はウクライナの農業の歴史に深く根ざしており、かつては織物やロープ、帆に使われる丈夫な繊維として広く栽培されていた。ソビエト連邦時代には、ウクライナは麻の主要生産地域の1つだった。だが、ソ連崩壊後、規制が不明確だったことや、この植物が精神活性用の大麻と関連付けられたことにより、生産量は激減した。2000年代初頭、厳格な法的枠組みの下で麻の栽培を復活させる取り組みが始まった。
「メイド・イン・ウクライナ」政策の下で復活を目指す麻産業
現在、戦時中であるにもかかわらず、ウクライナは麻産業の復活に向けた新たな取り組みを進めている。同国のユリヤ・スビリデンコ経済相は次のように述べた。「国内加工の発展は、政府の『メイド・イン・ウクライナ』政策の主要目標の1つであり、国家経済構想の一部だ。わが国は、経済構造を原材料中心からハイテク中心へと転換し、高付加価値製品の製造を増やさなければならない。だからこそわれわれは、近代的な技術を導入するすべての新たな生産施設を支援している。これはウクライナ経済の復興と独立に向けた一歩だ」
ソ連崩壊後の1990年代にウクライナで麻を含む靭皮(じんぴ)作物の加工が事実上消滅すると、梳毛糸(そもうし)の生産も行われなくなった。これにより、繊維産業は輸入に依存するようになり、競争力が低下した。こうした現状を覆すため、マリジャニは2023年に廃墟となった亜麻工場の修復を開始した。
事業拡大の一環として、同社は2024年に890ヘクタール、25年には1200ヘクタールの土地に産業用の麻を植える計画だ。同社はまた、1万平方メートルの生産施設と1万800平方メートルの倉庫の建設も終え、すべての工事と設備の設置が完了した。同社は原材料の試験や顧客向けの初期製品見本の生産も開始した。
この工場では、主に輸出向けに繊維や工業用布に使用される長繊維を生産する予定で、国内での加工を通じてウクライナのファッション業界を支援する計画だ。そのほか、紙や不織布、断熱材用の短繊維も製造される。
医療用大麻の合法化にも踏み切ったウクライナ
ウクライナでの大麻に対する見方の変化は、医療用にも及んでいる。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、戦争は3年以上続いており、戦争によって引き起こされた公衆衛生上の課題に対処するため、ウクライナの国会に当たる最高会議は23年12月、医療用大麻の合法化法案を可決した。
実際、長引く戦争の影響で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や慢性的な痛み、その他深刻な健康問題の症例が急増し、兵士と民間人の双方が苦しんでいる。同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2024年2月13日、医療用大麻の合法化法案に署名し、新法は同年8月に発効した。