さらに重要なのは、信頼性の高い他の髪サンプルから、ベートーヴェンの死因はB型肝炎による肝障害であり、飲酒や他の肝臓リスク要因が悪化させた可能性が高いとされたことだ。
その他の症状については?
「難聴や消化器系の不調の決定的な原因は突き止められなかった」とクラウゼは述べた。結果的に、ベートーヴェンの生涯と死については、むしろ新たな疑問が生まれたのだ。
肝炎にはどこで感染したのか? なぜ女性の髪が何世紀もベートーヴェンのものと誤解されたのか? 腹痛や難聴の本当の原因は何だったのか?
難聴を理解してほしいというベートーヴェンの願いを起点に始まったこの研究にとっては、やや残念な結果と言わざるをえない。ただし、彼の遺伝子からもうひとつ驚きの事実が浮かび上がっていた。

髪のY染色体とベートーヴェンの父方の現代の親戚との比較で、不一致が判明したのだ。これは、ベートーヴェン誕生までの世代のどこかで婚外関係があった可能性を示している。
「この発見は、1572年頃にベルギーのカンペンハウトで生まれたヘンドリク・ファン・ベートーヴェンと、1770年にドイツのボンで生まれたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの間に、父系での血統の断絶があったことを示唆する」と、英ケンブリッジ大学の人類学者トリスタン・ベッグは述べている。
ベートーヴェンが遺言に込めた願いからすれば、これは少々想像を超える事態だったかもしれない。
1827年の嵐の夜、彼の髪を切った友人たちが、未来に残すことになるほどの秘密を持っていたとは、彼自身夢にも思わなかっただろう。
本研究結果は『Current Biology』誌に掲載された。
本稿は「Science Alert」の3月19日の記事を翻訳したものである。