経営・戦略

2025.05.25 14:00

資産ゼロでも未来は買える、成功者が実践した思考法とは

イラストレーション=ミカル・ベドナルスキ

イラストレーション=ミカル・ベドナルスキ

2025年5月23日発売のForbes JAPAN7月号は「ビリオネアランキング2025 マスク、トランプの恩恵を受けたのは誰か?」と「未来は買える」を特集。毎年恒例のビリオネア特集で掲載する成功者の多くは、資産をもっていない時から、未来を買うために動いている。何を買うかにその人の理想が詰まっていて、それを実現するために、仲間や情報、お金を集めていく。では、人や企業はどんな理想を描いて、何を買うのか。その「買いもの例」から成功の道を探る。

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かつて未来を切り拓いた人々は、資産がなくとも先に使い道を描いていた。大胆な構想と調達力で時代を動かした彼らの軌跡に、今の私たちが学ぶべきヒントがある。


10年以上前のこと。韓国のITビジネスで大成功した若手研究者が「成功の秘訣」をこう話していた。「カネを貯めるのではなく、今100億円をもっていたら何に使うかを先に考えることが大事です」

その方が買うのに必要な「人、モノ、カネ」の調達に動き、新たなネットワークを築くようになる。調達力がレベルアップしていくと、描いたものを買える「器量と風格」が身についていく、というわけだ。

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それを物語る一冊の古い本がある。法政大学教授だった森川正英が書いた『日本財閥経営史 地方財閥』(1985年)だ。ここに、明治35年の地方資産家ランキングが掲載されている。

1位は兵庫の辰馬吉左衛門で、清酒「白鹿」の製造のほか、海運、金融、不動産、のちに学校を運営する多角経営の地方財閥だ。1位以外は当時「回漕業」と呼ばれた廻船問屋や海運業が多い。

昭和に入ると回漕業は減り、それまで資産家リストに入っていなかった人々が頭角を現す。森川が研究したのは、その人たちの成長プロセスであり、キーワードは「多角化」だ。なかでも一族から大反対されるほど、リスキーな調達をしたのが、豊田喜一郎と石橋正二郎だった。

昭和13年、喜一郎は国産乗用車の製造と、車社会の到来を描き、愛知県挙母町(現在の豊田市)に自動車工場を設立。工場だけでなく、従業員たちが暮らせるよう、デパートから病院までそろったひとつの町をつくったのである。

豊田家を潰しかねないスケールの大きさに、一族や役員たちは反対したが、ご存じの通り、地球上で「トヨタ」を知らぬ者はいない時代が到来する。

福岡県久留米市で着物の仕立屋だった石橋家の次男、正二郎は、兄と「日本足袋株式会社」を設立し、地下足袋の製造で成功している。ところが、正二郎もまた周囲の反対を押し切って、タイヤの製造に乗り出す。それが昭和6年のブリヂストンの創業である。同社はタイヤだけでなく、化学製品から自転車まで多角化に成功している。

破格外のスケールゆえに周囲から反対されるものの、それを押し切る突破力と調達力が特徴である。

そして、地方財閥として外せない存在が福岡の安川敬一郎だ。現在、産業用ロボットで世界トップクラスに位置する安川電機をつくる一族である。


Toyota Motor Corporation via Getty Images
Toyota Motor Corporation via Getty Images

豊田喜一郎|1894年生まれ。トヨタ自動車の創業者。妹の夫である利三郎から自動車製造に反対されたものの、トヨタ自動車創業時の株主は、利三郎が社長を務める一族企業とその取引先が占めた。終戦直後の混乱で組合との対立により喜一郎は社長を退任。1952年、社長に再任されることが決定した後、脳溢血で死去した。

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文=藤吉雅春 イラストレーション=ミカル・ベドナルスキ

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