この記事では、「AIは単なる『普通の技術』にすぎない」という急速に広がる主張への論争を検証しよう。この主張の骨子はこうだ。私たちはAIの本質や影響を過大評価し、AIを超人的な存在として誤解しているため、従来型AIへの対処を誤り、いつか訪れるかもしれない空想的なAIの未来ばかりを追いかけてしまう。よって、AIを普通の技術として捉え直すべきだ、というものだ。以上、終わり。
AIコミュニティはこの主張をめぐって大きく二分されている。ある陣営は「やっと『裸の王様』の実態が暴かれる時が来た」と熱く主張し、他方では「AIは単なる普通の技術などではない」と強硬に反対する声が上がっている。
「普通の技術」としてのAI
まず、この重い議論に入るにあたり、前提となる基礎的な点を整理しておこう。
AIをさらに発展させようとする研究は非常に盛んであり、その大きな目標には、人工汎用知能（AGI。Artificial General Intelligence）の実現、さらには人工超知能（ASI。Artificial Super Intelligence）の可能性までを視野に入れることが含まれる。
AGIとは、人間の知能と同等とみなされるAIであり、我々の知性に匹敵すると考えられている。ASIは、人間の知能を超え、あらゆる面で人間を凌駕するかもしれないAIだ。いわゆる「超知能」であり、あらゆる場面で人間を出し抜く力を備えるとされる。
現時点では、AGIはまだ実現されていない。
そもそもAGIに到達できるのか、あるいは数十年後、もしくは数百年後に達成されるのかも不明だ。AGI実現時期の予測はばらばらで、確たる根拠に基づくとは言い難い。ASIに至っては、現在の従来型AIの延長線上で語れる段階ではない。
こうした中で、「では今ある従来型AIはどう位置づけられるのか」という疑問が浮上する。
従来型AIは、例えばインターネットや電気と同列の「普通の技術」（Normal Technology）なのだろうか。
AIの比較が、インターネットの出現や電気の発見と利用といった、巨大で変革的なテクノロジーと比較されていることに注目してほしい。「普通」という言葉は、人類の運営方法に大きな変化をもたらした巨大なテクノロジーに水準を合わせるべきである。「普通」という言葉を通常のトースターや通常のネズミ捕りのようなものと解釈する罠に陥らないでほしい。
AIは本当に「普通」なのか、それとも桁外れに特別な存在なのか。考えてみる価値がある。
