モビリティ

2025.05.20 08:00

マスクが言うことはすべてウソだ―テスラのロボタクシーは「大失敗」に終わると専門家

2025年1月10日、ベルギーのブリュッセルで開催された2025オートサロンに展示されたテスラ・サイバーキャブ(Photo by Sjoerd van der Wal/Getty Images)

安全面で先を行くウェイモ

テスラのロボタクシー構想について語るとき、ウェイモとの比較を避けることは難しい。アルファベット傘下のウェイモは、16年という歳月と数十億ドルを費やしてこのテクノロジーの安全性に磨きをかけてきた。同社は、2018年にフェニックスで有料乗車を開始するはるか前から、公道上やカリフォルニア州の空軍基地跡に設けられた「キャッスル」と呼ばれるテスト施設、さらにAIの訓練のための仮想シミュレーション施設での無数の走行テストを行ってきた。

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ウェイモはまた、航空業界や顧客サービスに特化した企業からも人材を採用し、乗客を安全に乗り降りさせるためのテクノロジーの検証を進めてきた。

「乗客を乗せたオペレーションで最初に直面する課題は、目的地に着いたときに周囲の状況が毎回少しずつ違っていることだ。工事中だったり、配送トラックが停まっていたりするかもしれない。そうした状況にどう対処するかが課題になる」と、ウェイモのプロダクトマネジメントチームのクリス・ラドウィックは語る。

同社は、その課題を見据えて、乗客を最も安全かつ利便性の高い場所へ誘導するための洗練されたアプリも開発している。「交通を妨げるようなことは許されない。そんなことをすれば、地域住民から苦情が出る」とラドウィックは語る。「細部に至るまで、あらゆる点を正確にこなさなければならないのだ」。

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安全性についていえば、ウェイモはこれまで重大な事故や死傷事故を一度も起こしていない。しかし、同社のAIドライバーも完璧というわけではない。同社は、NHTSAからの指摘を受けて、道路上の障害物に接触する可能性のある不具合を修正するため、最近ソフトウェアのリコールを行った。

マスクの「低コスト」自慢

マスクは、ロボタクシーの安全性をどう確保するのかほとんど説明しない一方で、「コスト面での優位性」については大いに語っている。

「ウェイモの車両の問題は、とにかくコストが高すぎるということだ」とマスクは先日のテスラの決算説明会で語った。「彼らの車は超高コストで、生産台数も少量だ。テスラの自動運転車は、おそらくウェイモの4分の1、もしくは5分の1のコストで、大量生産されている」と彼は先月述べていた。

FSDソフトウェアを搭載したテスラのモデルYの価格は、税抜きで約5万5000ドル(約798万円。1ドル=145円換算)とされている。一方で、ウェイモがロボタクシー向けに改造を加えたジャガーの電動SUV「I-PACE」のコストは公表されていないものの、LiDARやレーダーなどのセンサー類を搭載しているため、テスラ車両の2倍程度になるとみられている。

しかし、テスラのロボタクシーがどれだけ安価に製造可能だったとしても、安全に乗客を運べず、事故を回避できないなら、コストに関する自慢は意味がない。

また、テスラのロボタクシーの実現を困難にしているのは、同社の自動運転システムが、主要なセンサーとして8台の500万画素カメラを使用している点だ。このカメラは、安価ではあるがiPhone 16の4800万画素カメラよりもはるかに解像度が低く、太陽光を受けた場合や、低照度の条件下では能力の確保に問題を抱えている。マスクは4月の決算説明会でこれを否定したが、オダウドが率いるドーン・プロジェクトによるテストでは、テスラ車のFSDが夕日を正面から受けた際に動作を停止することが確認された。

「我々はテスラを実際に夕日に向かって走らせてみた。そしてどうなったか? 止まったんだ」とオダウドは語る。「警告が点滅し始めて、パニックを起こし、赤い警告灯がつき、警告音が鳴って、『ハンドルを握れ』と言い出すんだ」。

これとは対照的に、ウェイモの車両は高価なLiDARを含む複数のセンサーを使用しており、あらゆる道路上の障害物を昼夜を問わず、3Dで確実に認識できるようにしている。

「マスクは、以前から繰り返し、高価なLiDARは不要だと述べてきた」と語るのは、NHTSAで自動運転車に関する助言をしていたAI専門家のミッシー・カミングスだ。「彼は、LiDARにはコストに見合うだけの利点がないと考えている。こうした考え方はより広範なエンジニアリング分野では一般的だが、自動運転に関しては間違いだ」。

「誇大妄想」で終わるリスク

マスクは先月、テスラのロボタクシーがオースティンでの展開を経て、米国の他の都市や中国、ヨーロッパにも拡大することが目標であり、「普及を阻むのは規制当局の承認だけだ」と述べていた。彼はまた、近い将来にテスラのオーナーが、自分の車を使わない時間帯にテスラの「ロボタクシー・ネットワーク」に参加させ、副収入を得られるようになると想定している(ただし、その場合はテスラに月額99ドル[約1万5000円]を支払う必要がある)。

世界一の富豪であるマスクは、テスラのEVやスペースXの宇宙ロケット、スターリンクの衛星通信といった分野で目覚ましい成果を上げてきた。しかし、ハイパーループやボーリングカンパニーといった、彼が「革命的だ」「大きな収益源になる」と約束しながら実現しなかった構想も数多い。ロボタクシーがここに加わるかどうかは、まだ未知数だ。

一方、もっと厳しい声もある。「マスクが言うことはすべてウソだ」。オダウドはそう結んだ。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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