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2025.05.20 11:00

スペイン大停電で注目される「水素鉄道」、電気鉄道に代わる災害対策に

ドイツ・ハノーファー中央駅に停車する水素鉄道車両「コラディア・アイリント」。 2022年9月15日撮影(Moritz Frankenberg/picture alliance via Getty Images)

架線のない水素鉄道は街の景観の改善にも貢献

2003年に「ハイドレール(水素鉄道)」という言葉を生み出したトンプソンは、従来の電気鉄道は近い将来行き詰まるだろうと見ている。トンプソンは「あらゆるものを電化する」につれて銅の価格が高騰しており、古い設備は持続不可能になりつつあると指摘する。鉄道用の新たな架線は設置に費用がかかるだけでなく、1キロ当たり年間約9万4000ドル(約1360万円)という維持費もかかる。

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世界的な電化推進が続く限り、銅は戦略上の障害であり続けると予想され、電気鉄道など社会基盤建設の費用が上昇する要因となる。世界的なエネルギー転換や技術の進歩、社会基盤の改良による前例のない需要により、銅価格は今年、記録的な高値を更新するとみられているが、一方で鉱山開発の遅れにより供給は伸びていない。地政学的な不確実性や各国の貿易政策も銅価格の変動性と上昇圧力を強めている。

銅が不足している現代、水素鉄道は強みを発揮する。水素鉄道は、銅を大量に使用する従来の線路脇の電力供給設備を必要としないからだ。水素鉄道では、銅の使用は主に列車自体に限定される。

トンプソンは、既存の電化路線から銅を回収することが、水素に移行する際の資金調達に役立つ可能性があると考えている。その上で「最初の2、3の架線鉄道設備が水素鉄道に移行すれば、残りもドミノ倒しで移行するだろう」と述べた。その速度は遅いかもしれないが、老朽化した鉄道設備の140年の寿命を正当化することは、困難になってきている。

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架線電気鉄道には、費用以外の欠点もある。電線からの地中電流が水道や電気通信、その他の地下設備に干渉する可能性があるため、公共事業の技術者はこれを好まない。都市計画担当者も長い間、不満を抱いてきた。街路では電力線や電話線を地中に埋める努力が何年も続けられてきたにもかかわらず、鉄道線路上は電柱や電線、金属片で雑然としたままだからだ。

米国が自然災害に備え開発した水素鉄道は移動式発電所

興味深いことに、水素鉄道が自然災害などによる送電網の不具合を乗り切る上で重要な役割を果たす可能性に最初に着目したのは、米国だった。2000年代初頭、米議会はジョージ・W・ブッシュ政権下で世界初となる水素鉄道車両の開発に資金を提供したのだ。同車両は米貨物鉄道会社BNSF鉄道によって製造されたが、単に貨物輸送を目的としていたのではなく、ハリケーンなどの自然災害時に病院などの重要な施設に緊急で電力を供給できる、自走式の移動式発電所として設計された。

同車両は米西部の軍事基地で実証され成功を収めたが、ブッシュ大統領の任期が終了すると、政府の支援も打ち切られた。このBNSF1205号は部品が取り外されて解体され、現在は水素部品を除いた状態で米オクラホマ鉄道博物館に展示されている。

だが、銅の価格が上昇し、老朽化した電気鉄道設備が寿命を迎えるにつれ、架線のない鉄道の経済的利点は増す一方だ。停電の際に明かりを灯し続けるために最初に考案された技術は、今や停電自体を完全に回避することに役立つかもしれない。米国、ドイツ、中国での初期の実用事例を超えて、水素鉄道がどの程度まで新たな標準になるのかは、時が経てば明らかになるだろう。スペインが現在の方針を維持すれば、水素鉄道が遠い未来の話ではないことを示す世界で最初の国になるかもしれない。同国はすでに軌道に乗っている。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

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