米国は他のどの高所得国より1人当たりの医療支出が多いことを考えると、これは単に医療費の金額の問題でないことは明白だ。恐らく、そのお金がどこに、あるいはどのように使われているのかが問題なのだろう。
パパニコラス教授は、米国では歴代政権下で、薬物関連の死や自殺など、回避可能な死を巡って数多くの議論が行われてきたと指摘した。ドナルド・トランプ新政権の下、ロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官は「米国を再び健康に(MAHA)」をスローガンに掲げ、健康的な食生活や有害な食品添加物への暴露を制限することなどを提唱している。だが、同厚生長官のMAHA構想は、銃による暴力や交通事故、出産事故、精神衛生、違法薬物使用などに関連する回避可能な死の予防には向けられていない。
厚生省の予算削減も、状況をさらに悪化させる可能性がある。その最たる例が、医療用麻薬オピオイドの過剰摂取の解毒剤であるナロキソンを全国の救急隊員に配布する、年間5600万ドル(約82億円)の助成金プログラムを廃止するという同省の計画案だ。
また、トランプ政権が、避けられたはずの死者数を測定することに重点を置いていないように見えるという事実が、この問題をさらに悪化させている可能性もある。一例として、厚生省は、薬物使用に関する全国調査を担当していた職員17人全員を解雇した。また、米疾病対策センター(CDC)は、銃撃や薬物、交通事故などによる死亡や負傷に関するデータベースを管理する部署を廃止した。さらに、エイズウイルス(HIV)をはじめとする予防可能な性感染症を追跡調査するための連邦政府支出は現在大幅に削減されている。測定されないものは、具体的な政策で適切に対処することはできない。


