映画

2025.05.20 09:45

“映画はアメリカでつくれ” 配信時代に突入する映画業界、ハリウッドの行方とは

(Photo by Joe Raedle/Getty Images)

Netflixはそうした成長を背景に、ニュージャージー州に12のサウンドステージやホテル、劇場を備えた大規模スタジオを建設中だ。完成すれば、フルタイムで1400人以上の雇用を生み出し、20年間で最大46億ドル規模の投資が見込まれる。州政府も最大40%の税制優遇措置でこれを後押ししており、「内製化による制作力の安定化」を図るNetflixの長期戦略の一環として位置づけられている。

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『Hollywood Reporter』誌は、世界のストリーミング市場(中国・ロシア除く)が6兆5千万ドル規模に達するとの見通しを示し、映画の“主戦場”が劇場から配信へと完全に移行するのは時間の問題だとしている。

ハリウッドの屋台骨、スタジオ事業の低迷

ハリウッドのメジャー・スタジオはこれまで、不動産(スタジオのレンタル事業)、映画作品のファイナンス、配給の3本柱を軸に収益を構築してきた。そうして作品の当たり外れによるリスクを相殺してきた。

具体的にはサウンドステージ(屋内撮影のためのセット空間)や関連施設を、自社作品に限らず他社作品にも貸し出すことで、継続的なレンタル収入を得てきた。2016年から2022年にかけて、その平均稼働率は90%台という高水準を維持していたが、2023年に69%、2024年には63%と稼働率が大きく落ち込んだ(FilmLA調べ)。

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実際、2023年にハリウッド地域でスタジオを使用して行われた撮影は延べ8,761日、映画・テレビを合わせた総作品数は1,225本にとどまった。これは、コロナ禍を含む2018年~2022年の平均(12240日)から大きく減少しており、スタジオ収入の柱である不動産ビジネスが鈍化している実態が浮き彫りになっている。

制作拠点はハリウッドから世界へ

では、なぜ“ハリウッド”での映画制作が低迷しているのか。最大の理由は、カナダや英国、米国内でもジョージア州やニューヨーク州といった地域で、映画制作に対する税制優遇措置が手厚いためだ。これらの地域では近年、制作規模が約2倍に拡大している。

実際、2024年に制作費4000万ドル以上が投じられる大型映画の撮影地をみると、米国本土が145億ドルに対し、英国は59億ドル、カナダ54億ドル、オセアニア20億ドル、ドイツ・チェコ・ハンガリーがそれぞれ10億ドルと続く。

とくに近年では、バーチャル撮影技術の進化により、大規模なセットを用いずともリアルな映像表現が可能になっており、最新設備を備えた欧州スタジオの存在感が増している。

その結果、プロデューサーたちの多くはコスト抑制を最優先に、従来のメジャー・スタジオ施設の利用を避け、海外や州外での撮影を選ぶ傾向を強めている。

組合による制約や物価上昇の影響もあり、制作費が高騰するカリフォルニア州(ハリウッド)は、2025年〜2026年の大型映画撮影地ランキングで6位に転落するとの見方も出ている。

ハリウッド再構築の可能性はあるのか?

このように、伝統的なスタジオモデルは変化を迫られている。一方で、スタジオ資産の利活用、バーチャル撮影との融合、新しい制作・配信スキームの構築など、“再構築”の道筋も見え始めている。

トランプ氏の言動は極論だが、「強いアメリカ」を目指す言葉の裏では、変革を迫られるハリウッドの映像産業の課題が確かに存在している。

文=北谷賢司

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