アートフェアは、世界中で催される数々のイベントの中でも最も華やかなもののひとつだ。だが、商業目的で行われるフェアの運営は、難しいビジネスでもある。2003年から開催されてきた「フリーズ・アートフェア」も2024年秋には、運営するエンデバー・グループ・ホールディングスが売却先を探し始めたことが明らかになっていた(2025年5月初め、新たな運営会社による買収が報じられた)。
また、アート・バーゼルとUSBが発表する年次レポートによると、「アート・バーゼル」のVIPデーの入場者数は2024年、2019年と比べて半数近くに減少。世界的なフェアに出展するギャラリーの年間売上高のうち、フェアでの売り上げが占める割合は2018年の46%から、2023年には29%に減っていた。
だが、こうした世界のアート市場において、どちらかと言えば「独自路線」を歩んでいるといえるのが、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される「アート・ドバイ」だ。
ウォーターフロントにつくられた魅惑的なリゾート、マディナ・ジュメイラで4月下旬に行われた2025年のフェアには、30軒のギャラリーが初参加し、売上高も増加した。出典したギャラリーの一つ、パレスチナ自治区のラマラとドバイに拠点を置くザワイエ・ギャラリー(Zawyeh Gallery)はプレビューで、パレスチナ出身のアーティスト、ナビル・アナニの2作品を10万~65万ドル(約1460万~9500万円)で販売している。
アジア・中東地域のアーティストを支援
18回目の開催となった2025年のアート・ドバイは、その他のフェアではなかなか中心的に扱われることがない若手や、アジア・中東地域出身のアーティストの作品に重点を置いた。
新たにフェアのディレクターに就任したドゥニャ・ゴトワイスはアート・ドバイ・グループのキュレーション担当エグゼクティブ・ディレクターとなったアレクシー・グラス・カンターとともに、今後もさらに地域のアーティストの支援にさらに力を入れ、開催するイベントも増やしていく計画だ。
以下、2025年のアート・ドバイで注目された5人のアーティストを紹介する。
サージ・イーサ
Tabari Artspace(タバリ・アートスペース)が開いたパレスチナ系米国人のイーサの「Never Make a Wish in a Dry Well」展に出品されたのは、パレスチナ自治区のラマラにあった陶器工場付近で発見された、10世紀の陶器の破片を使用した作品だ。
イーサはそれらの陶器について、古い破片が彼女を「見つけてくれた」と語っている。そして彼女は、ただそれらを保管するのではなく、自らの作品に取り入れることで、再び命を吹き込むことにした。釉薬の中にそれらの「色」を溶かし込んだり、ガラスの中に包み込んだりすることで、自らが受け継ぐパレスチナの遺産に、より近づくことができたという。



