トランプ米大統領の長男のドナルド・トランプ・ジュニア(47)と投資家チームが、「エグゼクティブ・ブランチ」と呼ばれる超富裕層向け社交クラブを首都ワシントンで立ち上げるというニュースが話題になっている。最初の加入者となったのは、トランプ政権で暗号資産と人工知能(AI)の政策を統括する大統領補佐官のデービッド・サックスで、50万ドル(約7250万円。1ドル=145円換算)を投じて最上級会員資格を購入した。
「とても単純な話だ。ワシントンD.C.で集まれる場所が欲しかったんだ」とサックスは、先日のポッドキャスト番組『オール・イン』で語った。
トランプ1期目の大統領在任中には、首都ワシントンのトランプ・インターナショナル・ホテルがトランプ支持者のための交流の場として機能していたが、トランプ一家は2022年にこのホテルを売却したため、新たな場所が求められていた。そして、社交クラブというビジネスモデルのほうが、はるかに儲かるものになりそうだ。
トランプ・ホテルは注目を集めたが、売却されるまでの間に大きな利益を生んだわけではなかった。トランプは2016年の大統領選挙の直前に開業したこのホテルに2億ドル(約290億円)以上を投資した。トランプの名前があることで、たとえば大統領就任式の時期には1泊1万8000ドル(約260万円)のスイートが埋まるなどの宿泊需要が発生したが、特別な日以外には空室が目立ち、トランプの名が旅行者に敬遠されることもあった。
2021年に下院監視委員会が公開した財務資料によると、トランプ・ホテルは開業から最初の4年間のうちの3年間で赤字を計上しており、当初想定した稼働率を達成できていなかった。ただし、一筋の光明に見えていたのが飲食部門だ。
飲食部門の収益は一般的に、ホテルの収益の4分の1程度を占めるが、豪華なロビーや広々とした宴会スペースを備えたトランプ・ホテルでは毎年、飲食が全体のほぼ半分の収益を占めていた。つまり、これが新クラブが成功する可能性が高い理由のひとつとなっている。ホテルの場合は、毎晩何百もの客室を埋めることを求められるが、エグゼクティブ・ブランチは、宿泊を伴わない社交クラブであり、トランプ一家の集客力を強みにできる。「これは、彼らの人脈を活かせるビジネスだ。大きな成功が見込めそうだ」とホスピタリティ業界のベテラン、ジョエル・ペイジは語る。
確実に儲かるビジネス
もうひとつの成功要因は、会員制という仕組みにある。この仕組みをとることで、クラブは最初に多額の会費収入を確保できる。サックスともうひとりのシリコンバレーの投資家チャマス・パリハピティヤは、50万ドル(約7250万円)の入会金を支払った約10人のうちのふたりだとされている。
そのほかの会員には、暗号資産のビリオネアのウィンクルボス兄弟や、トランプ中東特使のスティーブ・ウィトコフの息子アレックスとザック・ウィトコフ、トランプ・ジュニアのビジネスパートナーであるオミード・マリクとクリストファー・バスカークらが含まれるとされる。
このクラブが繁盛するのは間違いなさそうだ。トランプは、2016年のトランプ・インターナショナル・ホテルをめぐる訴訟で、自身の大統領選への出馬がビジネスに与えた影響について問われた際に、この年のマール・ア・ラーゴの収益が過去最高になったことを示唆していた。この好調はその後も続き、マール・ア・ラーゴの営業利益は2014年の約200万ドル(約2億9000万円)から2022年には2200万ドル(約32億円)へと急増していた。
トランプは、このような経緯を経て多くを学んだようだ。1期目在任中に、自身のビジネスの収益化に苦戦した彼は、プライベートクラブこそが政治で儲けるための最高のツールであることを知ったのだ。