米中貿易摩擦が暗礁に乗り上げたと思われた矢先、両国は90日間の停戦に合意し、中国製品と米国製品に適用される関税率をそれぞれ145%と125%から30%と10%に引き下げた。米国のドナルド・トランプ大統領が宣言した4月2日の米国の「解放記念日」以降、米中が互いにかけ合ってきた追加関税は一時停止されたが、中国から米国への流入が問題視される麻薬性鎮痛剤フェンタニルに関連して中国に課された20%の関税と10%の一般関税は維持された。
両国の交渉担当官は協議の「実質的な進展」を報告し、市場はこのニュースを熱狂的に歓迎した。米国と世界の株式市場が回復するとともに、ドルは大半の通貨に対して上昇し、金は売られた。
市場の好意的な反応は、世界経済にとって最大の脅威である米中貿易戦争が、永続的な貿易協定が結ばれれば緩和されるだろうという安心感を示している。これまで両国間の貿易は事実上停止し、世界の他の国々にも影響が及んでいた。米国と中国の経済は、世界の国内総生産(GDP)全体の45%近くを占めているからだ。
米大手投資ファンド、アポロ・グローバルマネジメントのトーステン・スロク主席エコノミストは、これまで米国の景気が後退する確率を90%と見積もっていたが、今回の発表によってテールリスク(訳注:まれにしか起こらないが、発生すると莫大な損失をもたらすリスク)は排除されたとみている。同主席エコノミストは、投資家は今、正常な環境への回帰について考えることができるとしている。
米エール大学予算研究所は、5月12日の中国の関税率変更により、経済への悪影響は前回の評価より40%程度減少するだろうとみている。米国の消費者が現在直面している全体的な平均実効関税率は17.8%で、今年のこれまでの最高値27.6%より下がってはいるものの、1934年以来の最高値だ。
その要因の1つは、合意の詳細が依然として詰められていないことだ。米国のスコット・ベセント財務長官は米ブルームバーグ通信のインタビューで、中国に対する相互関税が10%を下回ることは「あり得ない」と示唆。一方、中国が米国の要求に応じれば、トランプ大統領が4月2日に発表した相互関税の34%という水準が「上限になるだろう」と述べた。
第二に、中国は貿易協定を結ぶことはあっても、それを履行しないことで知られている。例えば、トランプ大統領の前政権時、両国は「第1段階」の貿易協定に署名し、中国は2年間で2000億ドル(約29兆円)相当の米国製品を追加購入することで合意した。ところが、米ピーターソン国際経済研究所によると、中国の実際の購入額はそのうちの6割にも満たなかったという。
第三に、米国の対中貿易赤字は2024年までに3000億ドル(約44兆円)近くにまで膨らんでおり、これを解消するというトランプ大統領の目標は、達成が非常に困難だろう。トランプ大統領は貿易をゼロサムゲームと見なしており、黒字国が勝者、赤字国が敗者だと考えている。しかし、もし仮に中国製品への145%と米国製品への125%の関税率が維持されていたとしたら、供給側の混乱により、両国の経済は回復不能な損害を被っていただろう。