脳を含むほぼすべての生体組織を再生
脊髄を切断されても、四肢を切断されても、果ては頭部をまるごと(他個体の)背中に移植されても、この奇妙な両生類はいつもと同じ穏やかな表情であなたを見つめ、まばたきをするだろう。そして、徐々にだが着々と、失われた組織を再生し始める。
アホロートルの細胞がもつ分化能力は、ほとんどSFの領域だ。例えば尾を失うと、脊髄のなかの幹細胞がオーケストラのように協調して作用し、細胞分裂を一斉に加速させて、失われた構造を再構築する。
アホロートルは、複雑な組織を傷ひとつなく正確に元通り組み立てる。骨、血管、筋肉から果ては脳の一部まで。彼らの組織再生能力の限界は、いまだ検証の途中だ。
1968年に『サイエンス』誌に掲載された論文のなかで、研究チームはアホロートルの頭部を他個体の背中に移植した。驚くべきことに、この「接ぎ木」された頭部は成長を続け、独立した神経活動を示した。この種が外来組織への不可解なほどの寛容性を備え、免疫系による拒絶反応を欠くことが裏づけられたのだ。
アホロートルの「自己治癒」は、実際には「リセット」だ。彼らの細胞は若く柔軟な状態へと逆戻りし、身体を不気味なほど精密に再構築する。
野生種が生息する池は1つだけ
アホロートルは身体こそ再生できるが、生息地に関しては不運に見舞われた。かつてメキシコ中部の標高の高い湖沼群に広く分布していた野生のアホロートルは、いまでは、運河とチナンパ(浮き畑)が迷路のように入り組んだ、縮小しつつあるソチミルコ湖にのみ生息する。
以前は豊かな生態系を育んでいたソチミルコ湖だが、古代から続く生物多様性はいま、現代の無秩序な都市拡大に圧迫されつつある。水面下の生き物はみな、未処理の下水、侵略的外来種、都市廃棄物の脅威にさらされているのだ。
アホロートルの苦境は、数字からも明らかだ。1998年の調査では、1平方kmあたり6000個体の生息が確認されたが、2008年には100個体を切るまでに激減した。2013年には、研究チームが4カ月にわたって探しまわったものの、1匹も確認できなかった(のちに少数の生き残りが、隔絶された湖の一画でようやく発見された)。
この最後の生息地ですら、安泰とは程遠い。数十年前に食用として移入されたナイルティラピアや、アジアンカープ(人為的に移入された、コイヤフナなどを含むコイ科の魚の総称)がアホロートルを圧倒し、幼体を捕食している。加えて、農業由来の汚染が、彼らの命綱である水質を悪化させている。
そして、何より懸念されるのは、実験動物やペットとして全世界に広まっている飼育下集団が、ほんのひと握りの個体の子孫であることだ。遺伝的ボトルネック(個体数が極端に減少することで、集団内の遺伝的多様性が低下すること)を経たために、抵抗力が損なわれているのだ。
脊髄すら再生できるアホロートルはいま、生息環境の消失という、身体損傷よりもずっと大きな危機にさらされている。


