問題の根源
商業栽培のバナナは、親株と遺伝的に同一のクローンである子株を植え付けて繁殖させている。この栽培方法により、果実の大きさ、味、成熟時期が均一になり、一貫性が求められる世界的な輸出市場にとって不可欠な条件をクリアしているのだ。
だが、それは農園内のすべてのバナナが本質的に隣の株のコピーであり、同じ脆弱性を共有し、自然界に存在する病原菌に対する耐性を遺伝的変異によって獲得する可能性が全くないことを意味する。
しかも、バナナは少々変わった遺伝的構成をしている。通常は2組の染色体が3組ある3倍体で、種子を形成しない。種がないため食べやすく消費者に好まれる一方、異なる品種を掛け合わせて耐病性の高い形質を導入する従来の交配育種が不可能だということでもある。
そのため、TR4のような病原体による病害がいったん発生すると、プランテーション全体に野火のように広がり、遺伝的に同一のバナナが全滅してしまいかねないのだ。
グロスミッシェル種の衰退
20世紀初頭、グロスミッシェル種のバナナは「ビッグマイク」の愛称で知られ、その豊かな風味、丈夫な果皮、日持ちしやすいことから世界のバナナ貿易の頂点に君臨していた。中米から欧州・北米への輸出市場を独占し、プランテーションはほぼ全面的にグロスミッシェル種の株分け繁殖に依存していた。
しかし、1950年代にパナマ病菌熱帯レース1(Fusarium oxysporumf. sp.cubense Tropical Race 1:Foc TR1)を病原体とするパナマ病が、コスタリカやパナマをはじめ世界各地のプランテーションで猛威を振るい始める。
グロスミッシェル種は同じ遺伝的弱点を共有していたため、パナマ病は歯止めのかけようもなく広がり、数千ヘクタールに及ぶ大農園のバナナが丸ごと枯死。地域経済全体が崩壊の憂き目に遭った。
1960年にはグロスミッシェル種のバナナはスーパーマーケットの棚から姿を消した。生き残ったのは、隔離された環境にある小規模農園か、グロスミッシェル種を存続させるためにバイオセキュリティ対策に費用をかけられる裕福な愛好家の手元にある株だけだった。
単一品種への過度の依存は、モノカルチャー(単一栽培)とモノクローナリティ(単クローン性)の危うさを露呈したのである。


