「バリュー株投資家にとって、日本は宝の山」
吉川:ドリューさんは長年日本に投資をしてきましたが、いま現在の日本株市場はどう映っていますか?
ドリュー:日本は世界でも稀に見る「バリュー株の宝庫」です。つい最近までは、グロース株がバリュー株よりも優位な時期が長らく続いてきましたが、ようやくバリュー株に光が当たり始めています。企業の改革が進み、過去に評価されなかった銘柄にも再評価の波が来ています。
私たちは、非効率な資本構造、遊休資産、非中核事業、人材や知的財産の有効活用といった観点から、変化の兆しがある企業をいち早く見つけることに注力しています。特に、企業に新しい経営者が就任したり、取締役会に外部人材が加わったりする局面に大きなチャンスがあります。そういう会社に寄り添いながら成長をサポートすることが、私たちの喜びでもあります。
吉川:一方で、日本企業が今なお抱えている課題は何だと思いますか?
ドリュー:たとえば「持ち合い株式(クロスシェアホールディングス)」の問題です。これは1950年代にリスク回避策として始まったものですが、もはや必要ではありません。それどころか、資本効率を悪化させ、企業ガバナンスの透明性を損なっています。
政府や金融庁もこうした問題に真剣に取り組んでおり、規制強化や開示義務の厳格化が進められています。しかし、一部の企業では、表面的に投資家のカテゴリーを変えることで、あたかも持ち合いが解消されたように見せて、本質的な変革から逃げるような動きも見られます。こうした企業に対しては、投資家が毅然とした態度を取る必要があります。
変化を恐れず、今こそ動き出すとき
吉川:日本におけるコーポレートガバナンス改革は、より米国的な企業モデルへの移行と見られることが多いですが、 その中でも、日本型経営固有の良い部分があると思いますか?
ドリュー:はい、あります。たとえば、日本の経営者は「社会にとって正しいことをする」という意識を強くもっています。アメリカでは、インセンティブ設計によって経営行動を誘導できますが、日本の経営者はそれだけでは動きません。
それが短期的には効率を悪化させることもありますが、長期的には持続可能な成長をもたらす要素になると私は考えています。しかも今、その「正しいこと」の定義が変わりつつあります。より株主を意識し、より市場を意識する経営が「社会的に正しい」と認識され始めているのです。
吉川:新たな価値観が企業経営により受け入れられるにつれて、企業ガバナンスにおいて大胆な変革を実行する力が経営陣に備わっていくことを期待したいですね。 最後に、日本企業の経営者に向けてメッセージをお願いします。
ドリュー:一言で言えば、「この変化に積極的に乗るべき」です。コーポレートガバナンス改革、資本効率改善、事業ポートフォリオの再構築。これらは日本の事情に合わせて慎重に設計され、確実に効果を上げつつあります。
しかも、この流れはもう後戻りしません。だからこそ、受け身ではなく、自らの意思で変革を進めてほしい。今こそ、過去30年の努力を実らせる絶好のチャンスなのです。


