近年、サステナビリティをもとにした消費行動や嗜好の変化から、ラグジュアリーの領域におけるヴィンテージ品のステータスが急速に向上しています。2022年の世界の中古高級品市場は、300億ドル以上と評価され、2028年までに580億ドルに達すると予測されています。
「使用されたもの」への価値観がシフトしつつあるな、ということが最近のラグジュアリーファッションブランドの動向からも窺えます。例えば、バレンシアガ、コーチ、ミュウミュウなどのブランドが、使用感や痕跡のあるバッグをあえてコレクションで使い、現実的に共感できる物語性やパーソナリティを表現しています。
特にミュウミュウは、『ザ・スーベニア~魅せられて~』で評価を得たイギリスの映画監督ジョアンナ・ホッグを起用し、開封から使い古されるまでの白いハンドバッグの一生を通じて、現代イタリアの情緒を描いた『Autobiografia di una Borsetta (ハンドバッグの自伝)』という実験的なショートフィルムを制作しました。多くのブランドがいま、新製品のデザインやマーケティングでも「中古」の美学を再考しています。
そのような潮流に加え、ポストコロナの旅行人気と円安という好条件に恵まれて、「中古品天国」と称される日本への関心は高まる一方です。貿易専門誌『Reuse Economic Journal』によると、日本の中古品市場の2023年の総額は前年比7.8%増の3.1兆円。そのうちブランド品は3656億円で、前年比19.4%増。ソーシャルメディアでは、多くの海外セレブリティやインフルエンサーが日本を訪れ、入手したレアな中古アイテムを誇示する様子を目にします。
この人気に関し、「日本には『もののあわれ』というモノを大切にする文化があり、状態の良いアイテムがリーズナブルな価格で手に入る」と評価する海外メディアの記事をいくつか目にしました。しかし、実際の日本の生活の中で、「中古品」と「もののあわれ」が直結しているかどうかには疑問が湧きます。
英オンラインファッションブランド「Public Desire」のリサーチチームが2024年に実施した「世界の古着文化調査」によると、日本の古着屋の数は48万3000店。これはイギリスのおよそ10倍、アメリカのおよそ15倍に相当します。一方で、人口のうち中古衣類を一度でも購入または販売した人の割合を見てみると、日本は30%。アメリカは93%、イギリスは70%でした。