「アメリカではランドスケープ・ライティングという分野が確立されている」
古澤たちはそんな情報を得てカリフォルニア州での講習会へと飛んだ。そこには驚きのノウハウが百科事典なみの厚みで詰まっていた。「宝物をもらった感覚でした」と、古澤は回想する。
「例えば、植物と光には相性があります。落葉樹、広葉樹、針葉樹、などによって葉の密度は異なり、どういう光をどこから当てるかで美しさは変わるのです」
古澤は仲間と2カ月かけてテキストをつくった。次に、この技法をどうやって日本で広めるか、だ。悩みから抜けられないまま、和歌山市内の居酒屋に同僚と出かけると、若い女性店員が生ビールのジョッキを手にこう声をかけてきた。
「今日、私、キリンのドラフトマスターズスクールで合格したんです。おいしいので飲んでください」
「ドラフトマスター? 何、それ?」
古澤が問うと、女性は生ビールをおいしく提供するための鮮度管理やサーバーの洗浄、注ぎ方などが決められているという。その講習を修了すると「マイスター」に認定される。店の壁を見ると、認定店の証書が貼られていた。認定資格と認定店、認定店を網羅したwebサイトもあった。
古澤たちは顔を見合わせた。
「我々の業界にマイスター制度がなければ、業界初の制度をつくろう!」
─第1回「ライティングマイスター制度」の講座は、東京のTKP貸し会議室で開かれた。壇上に立つのは古澤だ。彼の目の前には100名を超える受講者がいた。庭師、造園業者、住宅会社、インテリアデザイナーらだ。古澤はこう訴えた。
「照明が、皆さんの武器になります」
自社商品の宣伝は一切なし。照明の基礎知識、技法、そして熱弁をふるいながら照明の意義を説いた。実行に二の足を踏む人のために、トライアルキットも準備した。
3日連続の講座は反響を呼んだ。「うちの県でも講座をやってくれないか」と反応したのは、かつてクレーム処理をしたタカショーの支店営業マンたちだ。彼らが古澤の理解者となり、顧客にこう説いて回った。「100万円の庭を10万円の照明でライトアップすると夜の庭に価値が生まれます。夜の庭に価値が生まれることで、100万円の庭に倍の価値が生まれます」と。
業界初のライティングマイスターが増えていくと、うそのように売り上げが前月比を上回り続けた。その数は9000人にまで増えていく。そして2017年、新たな価値をもたらす次の客が登場する。
「大阪の中之島でイルミネーションをやらないか」と、大型施設でのデザイン施工を提案する顧客が登場した。その仕事を受けた後、彼はふと思った。本当に光をともすべき暗闇があるのではないか、と。
思いついたのが、人工島「和歌山マリーナシティ」だった。1994年の世界リゾート博のためにつくられたヨーロッパの美しい街並みのテーマパークだが、冬は海からの寒風もあってか、夜は真っ暗になる。「ここがイルミネーションで飾られたら、子どもたちが喜ぶだろうな」と思ったものの、タカショーはメーカーであり、イベント会社ではない。会社はリスキーと考えるだろう。でも、冬に飾られないまま出番のない哀れなトナカイのイルミネーションを思い出した。そこでひらめいた。
「倉庫を移動させたと思えば、あとは施工費とチラシ代しかかからない」と。


