経営・戦略

2025.05.16 13:30

光のマイスター制度で地域を照らす光へ、古澤良祐の逆転劇

古澤良祐|タカショーデジテック

古澤良祐|タカショーデジテック

かつて「会社のお荷物」として扱われた男は、地方都市に光をともす希望の星になった。LEDで新境地を切り開いた、まるでわらしべ長者のような物語。


「僕らのやり方と同じことが書いてあったんですよ」と、古澤良祐は食事中にかばんから一冊の本を取り出した。タイトルは、『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』。アメリカの経営学者、サラス・サラスバシーが発見した成功事例に共通する思考の規則性を解説したベストセラーだ。

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エフェクチュエーション──予測に頼らない新しいヒット戦略

同書には古澤のストーリーを象徴する言葉があった。曰く、エフェクチュエーションとは、「わらしべ長者のようなプロセス」。そのココロは、人との出会いが相互作用を生み、想定外の価値をもたらし、ウィンウィンとなる。

似たプロセスを経た古澤は、今、「地方創生の旗手」と見られている。日本各地で人のにぎわいを生み出しているからだ。

麻布台ヒルズ、東京スカイツリーの東京ソラマチ、東急歌舞伎町タワー─ 。これら東京の人気スポットの照明やLEDサインを手がけるのは、東京から遠く離れた和歌山県海南市にあるタカショーデジテックである。2004年の創業以来、同社は長い間、厳しい業績を続けていた。ところが、2010年から25年まで売上高は635%増、32.8億円に伸びる急成長ぶりである。同社のわらしべ長者に似た物語は、04年1月、古澤がテレビで次のニュースを見たところから始まる。

〈東京地裁は日亜化学工業に青色LEDの発明の対価として、発明者である中村修二教授に200億円を支払うよう命令〉

当時、古澤はガーデニング用品トップのタカショーに入社して2年目。国際部で社長秘書兼通訳として世界を回っていた。200億円という対価に驚き、初めて聞くLEDについて調べると、思わず膝を打った。長寿命、熱を持たない、虫が寄り付きにくい。エクステリアとガーデニングを生業とするタカショーにとって、LEDは「屋外にぴったり」と思えたのだ。

ほどなくして、取引先が「今うわさのLEDなんですけどね」とLEDを持ち寄り、次に別の会社が「これ、光を通すんです」と、人工大理石なる新素材を見せに来た。古澤がLEDと大理石を組み合わせると、光が大理石を透過して淡い明かりを放つ。光がアートに変わった瞬間だった。

04年、社内ベンチャー「タカショーデジテック」が誕生し、光を透過する人工大理石「マーベライト」が発売された。これが長い苦難の始まりとなる。

パートナーは9000人

「古澤は会社のお荷物です」

タカショーの役員会議には厳しい報告が届くようになった。マーベライトは玄関アプローチや外壁に埋めることで光の演出ができるはずだった。ところが、「電気がつかない」という施工主からのクレームが相次いだのだ。

失敗の一因に分業制がある。電気設備の工事には電気工事士の国家資格が必要となる。電気設備の工事は川上のメーカーから川下の設備業者まで商流が完結しており、電気工事士が扱う製品はおおかた決まっている。一方、造園業者は電気工事士の資格をもっていない。

この問題を解消するため、古澤たちは資格を必要としない低電圧の商品をつくった。しかし、造園業者は照明に詳しくない。古澤たち自身も電気を扱ったことがない。提案力も施工方法も見切り発車がゆえに、問題の解決には至らなかった。

「もどかしかったですね。僕らが想像している庭になぜならないのかなって」 

この厳しい状況を脱せられないまま時は過ぎ、そして2010年、局面が変わる。強力なパートナーを得ていく。しかも、味方は9000人近くまで膨らむのだ。

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文=藤吉雅春 写真=宇佐美雅浩

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