マーケティング

2025.05.14 13:30

値上げしても絶好調。ヒット連発を生む「おもろい」社風

小路順一|パル

小路順一|パル

お洒落で手ごろな雑貨店「3COINS」がヒットを連発し、近年、急成長を遂げている。値上げ後も続く躍進の背景には、大阪創業の企業らしいユニークな経営哲学があった。


東京・原宿にある「3COINS(スリーコインズ)」に入ると、平日にもかかわらず多くの客でにぎわっている。化粧品や生活雑貨、家電まで豊富な品が揃い、近年は300円超の商品を強化しているため、代名詞の300円商品は半分ほど。お洒落なスマートウォッチが税込4180円で買えるなど、手ごろな価格の妙もあり店内を見てまわるだけで楽しい。

最近では、スティックタイプのジェルネイルが初心者でも簡単に塗って剥がせると大ヒットし、累計販売個数が600万を超えた。また、ワイヤレスゲームコントローラーは、アイボリーやピンクの色合い、スケルトンのデザイン展開が可愛いと累計で35万個が売れた。いずれも生活必需品ではないが、3COINSのコンセプトである「ちょっと幸せ」を体現する商品がウケて、業績も右肩上がりだ。

コロナ禍前は250億円ほどで推移していた3COINSの売り上げは、2024年2月期には630億円まで拡大。今期は、700億円の大台を突破する見込みだ。ではその原動力となったヒット商品連発の裏に、どんな仕掛けがあるのだろうか。

LEDランプで光るスケルトン素材のクリアゲームコントローラーは、税込3,300円。写真はピンク(上)とパープル(下)。パステルカラーが人気のワイヤレスゲームコントローラー(税込2750円)と累計35万個の大ヒット。
LEDランプで光るスケルトン素材のクリアゲームコントローラーは、税込3300円。写真はピンク(上)とパープル(下)。パステルカラーが人気のワイヤレスゲームコントローラー(税込2750円)と累計35万個の大ヒット。

3つのうち、ひとつ当たれば大当たり

3COINSの魅力のひとつが、いつも店頭に新商品が並んでいることだ。運営会社であるパルは、約60のブランドを展開するアパレル企業。1カ月で商品を変える「4週間MD(マーチャンダイジング)」を行い、3COINSでは毎月約800点もの新商品が展開される。

「アパレル業界では流行が目まぐるしく変わり、商品サイクルがおそらくどの業界より短い。そのため店頭の鮮度をいかに保つかに注力しています。雑貨では異例ですが、3COINSでも『4週間MD』を取り入れ、お客様のリピート率が高まりました。さらに売り切れが出るので買い控えも減り、商品の回転も良くなりました」とパル代表取締役社長の小路順一は説明する。3COINSの在庫消化率は9割に上り、廃棄もほとんどないという。

人気商品をいかに開発しているか聞くと、担当しているのは他社で経験を積んだプロではなく、ほとんどが販売の現場から手を挙げてきたスタッフだという。その数約20人。素人集団が単純計算でひとり月40本もの新商品企画と値付けをし、大ヒットを生み出している。なぜ素人が結果を出せるかを尋ねると、「常識にとらわれないからでしょうね。例えばゲームコントローラーなんて最初は売れるかわからないから小ロットでつくるしかないし、金型代が高い。企画のプロならまずやらないはず。3COINSでは素人が消費者目線で開発したからできた」と小路。

また、常識にとらわれない理由もおもしろい。パルでは関西でいう「おもろい」やつを最優先で採用する。「おもしろいではなく、あくまで『おもろい』。いわば普通の人が考えない発想をする人、小さくまとまっていない人でしょうか。ただその分、扱いにくいんですけど」と笑う。

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文=古賀寛明 写真=吉澤健太

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