パルでは社員の個性を最大限に生かすため、失敗を責めない文化がある。何しろ創業者が「事業は3つのうち、ひとつでも当たれば大当たり」というくらいだ。上司は部下のバイヤーから売れなそうな企画を提案されたとしても、よほどのことがないと却下しない。そしてバイヤーが自らの裁量で企画商品を小ロットで生産・販売し、市場の反応を確認できる仕組みがある。このユニークな社風こそ、ヒットを生む源泉だ。
社員の個性は、商品開発以外でも光る。コロナ禍以降、3COINSが急速に業績を伸ばしたきっかけは、自宅待機中の社員が独自に始めたSNSによる商品の紹介だった。今ではSNSを通じた発信に会社全体で取り組み、なかには33万人ものフォロワーを抱える社員もいる。もちろん社員に強制はしない。しかし結果を出せば、インセンティブを含め社員が報われる仕組みを整えている。
値付けは現場、値上げはマネジメント
ただ、急成長のなかにもピンチがあった。24年2月期は売り上げこそ好調だったが、急激な円安で利益率が著しく低下。「あらためて経費や価格ごとの利益率を洗い出しました。利益率は300円の商品で最も悪い予想でしたが、驚いたことに実際は同価格帯でいちばん良く、1500円や2000円などの割と高い価格帯で悪かったんです」。
そこでボトムアップの同社では異例のトップダウンで、小路が値上げを敢行。前述のスマートウォッチはデザインや機能を変えず880円の値上げをしたが、市場では類似品が倍以上の価格で売られており、販売は好調のままだ。値上げに伴い、複数の商品で機能の見直しも行った。人気のサラダスピナー(税込330円)は従来、手で回すタイプだったが、使いやすくプッシュ式に改良して税込660円で発売した。
その結果、3COINSの利益率は上昇。顧客は値上げ後もなお商品価値が価格に勝ると判断し、売れ行きへの影響は出なかった。
しかも、3COINSは値上げにより主戦場をいわゆる100均市場からより高い価格帯のIKEAやニトリ、無印良品と競合する市場まで広げた。さぞかし競争が激化するかと思いきや、「値上げでより多くの製造コストをかけられるようになるため、攻め手が増えて有利になる」と小路は今後に期待する。
現在は店舗を増やし、店舗当たりの面積も従来の小型店舗から150坪、将来的には300坪まで広げようと取り組む。それに伴いターゲットも従来の女性から家族層に、商品カテゴリーもメンズやカー用品まで拡大。気づけば売り上げは、1000億円を見据えるまでになった。それを現実のものとするため、小路には決して揺らがない軸がある。
「これまで創業者からいちばん叱られたのは、既成概念にとらわれたときでした。これは売れないとか、値段はここまでだとか。でも『おもろい』やつは、そこにキャップをはめない。この文化をもっと大事にしていきたいと思います」
小路順一◎1963年生まれ。奈良県出身。86年天理大学体育学部を卒業後、パル(現パルグループホールディングス)へ入社。2001年同社取締役、13年取締役兼専務執行役員に就任。24年3月より現職。


