昨年夏、欧州の「オーバーツーリズム(過剰観光)」が大きな問題となった。今夏も記録的な観光客数が見込まれることから、有名観光地の多くは混雑対策を実施しているが、欧州全域で地元住民による抗議活動も予想されている。旅行者の側も過剰観光によって休暇が台無しにならないよう、目的地を考え直すべきではないだろうか。
今夏も欧州に過剰観光の嵐が吹き荒れるのか?
2024年は世界の旅行業界にとって極めて重要な年となった。海外旅行者数は新型コロナウイルス流行前の96%に達し、過剰観光の話題が欧州の新聞の見出しを飾った。このような背景から、地元住民や自治体は、観光客を無制限に受け入れることに疑問の目を向け始めている。ベネチアは観光税を導入し、アムステルダムやフィレンツェは住宅の観光客向け短期賃貸の制限を実施。ギリシャの首都アテネにある古代遺跡の複合施設アクロポリスは1日の入場者数を2万人に制限した。こうした欧州の風潮に敏感に反応し、行き先を中米のカリブ海に移したクルーズ企業もある。
旅行業界は持続可能性をサービスの最前線に置くようになり、「パリの混雑を避けたいのなら、アントワープかブルージュへ行こう!」といった「行き先のちょっとした変更」も一般的になってきた。とはいえ、欧州は今夏も過剰観光の嵐に見舞われるだろうと思われる要素もある。
・アナリストらは、海外旅行がこれまでで最も大きな動きを見せるだろうとみている。国際航空運送協会(IATA)は昨年末、2025年の年間航空旅客数が過去最多の50億人を超えると予測していた。米国のドナルド・トランプ大統領の関税政策が消費者の旅行支出に長期的にどのような影響を与えるかは不明だが、昨年と比較すると6.7%増加すると見込まれている。
・米紙ニューヨークタイムズは、反観光団体「観光地化に反対する南欧ネットワーク」が6月15日に欧州全土で抗議行動を計画していると報じた。同団体は具体的な行動形態についてはまだ決定していないが、デモ行進や空港での座り込み、観光客の史跡への入場妨害、観光バスの封鎖などを検討しているという。
・欧州観光委員会(ETC)は、今夏の欧州内旅行、つまり欧州内の旅行を予定している欧州人の数が昨夏より増加すると予測している。長期滞在を計画する旅行者が多く、消費額も増える見込みだという。
欧州の人気観光地を訪れるなら、観光客の密度に配慮しよう
フランスの作家ビクトル・ユゴーは早くも1843年に、「やがてビアリッツは砂丘に通路を、断崖絶壁に階段を、岩場にキオスクを、洞窟にベンチを設置するだろう。そうなれば、ビアリッツはもはやビアリッツではなく、ディエップやオステンドのように変わり果ててしまうだろう」と苦言を呈していた。欧州は19世紀の当時から過剰観光に悩まされてきたのだ。
フランスは世界で最も多くの観光客を集める国であり、2023年には7240万人の旅行者が訪れ、世界第2位の観光立国スペインを160万人上回った。フランス政府観光局は2023年以降、モンサンミシェルやノルマンディーの絶壁エトルタなど、国内の観光地のわずか2割に集中する観光客を別の場所へ誘導しようと努めてきた。同局はソーシャルメディア(SNS)上に長い行列の写真を投稿するなどして、旅行者が特定の観光地に殺到しないよう仕向けるといったことも行っている。



