変動料金制は過剰観光の抑制に有効か?
旅行者数の制限は、観光地の当局にとって一般的な戦術となりつつある。例えば、仏南部マルセイユのカランク国立公園では、石灰岩の断崖に入場できる日帰り旅行者の人数を1日当たりわずか400人に限定している。年間900万人が訪れる、世界で最も来館者数の多い美術館であるパリのルーブル美術館も入場者数を制限している。仏北部ブルターニュ地方のブレア島は、午前中に入島できる観光客数の制限を再び導入した。
料金設定も解決策のひとつだ。ベネチアは2024年に導入した入場料制の適用期間を拡大した。また、多くの大都市では10年以上前からホテルの宿泊税が存在している。
一方、先述のスタティスタは、こうした都市への入場税や宿泊税は適用範囲が広すぎると指摘し、変動料金制を使って需要と供給を近づける方が効果的だとみている。変動料金制とは、年間を通じた一律料金ではなく、繁忙期に料金を高く設定することで、人々が閑散期に旅行するよう促す戦略だ。ホテル側は、年間を通じて安定した収益を確保することができる。スタティスタは、宿泊税にも季節性指数を加え、繫忙期の予約から徴収する税金を増やすことも可能だと提案した。ホテル予約サイトのサイトマインダーが行った世論調査によると、変動料金制による繁忙期の値上げに賛成する割合は回答者の65%に上り、反対の13%を大きく上回った。
そのほか、海外旅行保険の多くは、例えば、すでに予約をした目的地が混雑のため閉鎖された場合などに保険金が支払われるため、自分の保険が過剰観光に伴う事態に適用されるかどうかを調べておこう。
過剰観光により人気観光地の住民の生活が脅かされる中、旅行者は持続可能な旅行に適応するか、過密状態で旅行体験が制限されるリスクを冒すかという選択に迫られている。変動料金制や入場制限、行き先の変更の普及など、旅行業界は進化を続けているが、今年の夏に充実した休暇を過ごすための鍵は、綿密な計画にある。
フランス最古の学術団体、アカデミー・フランセーズの会員だったジャン・ミスラーが「観光業とは、家にいた方がいい人たちを、彼らがいない方がいい場所へと輸送する産業だ」と皮肉ったことは注目に値する。欧州で過剰観光が問題となっていることを念頭に置き、どれだけの人が同じ目的地を目指しているかを十分に考慮すれば、休暇をより充実したものにすることができるだろう。


