しかし、ドイツの調査企業スタティスタによると、フランスの観光客密度は隣国スペインより低い。スペインの中でも、マヨルカ島、メノルカ島、イビサ島、カナリア諸島は、人口比で欧州で最も観光客が多い場所のひとつとなっている。昨年、地元住民による抗議活動が最も多かったのもスペインであり、バルセロナでは観光客が水鉄砲で水を浴びせられ、北部の海岸地方ではビーチへ向かう車が妨害されるなどの事件が相次いだ。バルセロナの116番バス路線沿いに住む地元住民は、過剰観光の影響を緩和するために同路線をグーグルとアップルのマップ上に表示しないよう地方議会に請願し、訴えが認められた。したがって、欧州を訪れる際には、SNSでよく見かけるような人気の場所を避けるのが適切かもしれない。
インフルエンサーマーケティングを手がけるヒープシーは、2025年に欧州で最も過密になると予想される目的地を割り出した。これは観光客の密度(1平方キロ当たりの観光客数)と米画像共有アプリ「インスタグラム」上のハッシュタグ数から、物理的な混雑とSNS上の人気を反映させたもので、場所が混雑しすぎるとSNS上でメッセージを発信するというフランス政府観光局の戦略に似た興味深い調査だ。
それによると、ジュネーブ、パリ、ローマが上位3位を占めた。ジュネーブは狭い面積の中に年間800万人もの観光客が集中するため、特に有名な大噴水の周辺では観光客対面積の比率が非常に高くなる。パリの都市面積はジュネーブよりはるかに広いが、年間5000万人もの観光客が訪れるため、上位に入った。ローマはインスタグラムのハッシュタグ数が3100万件で、全都市の中で最大だった。ローマは上位10都市の中で最大の都市面積を持ち、通常であれば過密状態は緩和されるはずだが、SNS上の人気と年間3500万人の観光客が大きな混雑を生み出している。インスタグラム上のローマのハッシュタグ数は、ジュネーブの6倍以上に上る。
ヒープシーの創設者タビ・ビクーニャは、SNS上の人気と物理的に観光客を受け入れられる能力の間の隔たりが拡大していることは、欧州の観光業にとって根本的な課題となっていると指摘。それだけの人数を想定して設計されていない街の中心部の狭い旧市街に何百万人もの観光客が押し寄せると、地元住民の生活が脅かされると警告した。
目的地の変更で欧州の過剰観光は避けられるか?
幸いなことに、長年人気を維持してきた欧州の都市から少しずつ旅行者が離れつつある兆しも見られる。ETCの欧州内旅行に関する消費者心理調査によると、地中海沿岸の伝統的な人気観光地の人気がわずかに低下し、東欧への関心が高まりつつあることが示された。昨年末に発表された一連の人気旅行先ランキングからも東欧に目を向ける旅行者が増加していることが明らかになり、特にアルバニアの人気の上昇が著しかった。この傾向は恐らく、政治的・経済的な不安定性が増す中、休暇旅行にかけるお金を有意義に使いたいという消費者の心理が関係しているのだろう。
米旅行誌コンデナストトラベラーは、混雑を避けたい旅行者向けに、従来の人気観光地とは異なる7つの目的地を紹介した。それは、スロベニア、クロアチア、チェコ、トルコ、オーストリア、ハンガリー、モンテネグロだ。だが、皮肉なことに、ひとたび混雑していない場所として紹介されると、大抵はその逆の現象が起きてしまう。実際、ある旅行代理店によると、今年7~9月期のモンテネグロの予約は前年同期比24%増加している。ブダペストは同143%、オーストリアは同243%、トルコは同272%、チェコは同309%、クロアチアは同356%、スロベニアに至っては同473%の増加だ。


