少なくとも日本に関しては、ウォーレン・バフェットの投資戦略は「遅れてもやらないよりはまし」というタイプのもののようだ。
「オマハの賢人」がアジア2位の経済大国の株式をついに買うことにしたのは、彼が本格的に投資を始めてからおよそ60年後のことだった。バフェットは以前にも日本株の購入を検討したことがあったものの、自身が率いるバークシャー・ハサウェイは見送っていた。それが変わったのは2019年のことである。
世界で最も高名なバリュー投資家が、日本の総合商社5社、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事に大きな投資をしたことは、日本の企業経営者らにとっても驚きだった。100年以上の歴史を持つこれらの老舗商社は、グローバル投資家のレーダーにほとんど映っていなかったからだ。
バークシャーが5社の株式のおよそ5%を保有していることが明らかになったのは、新型コロナウイルス禍が世界経済に大きな打撃を与えている最中だっただけに、なおさら不可解に映った。だが、バフェットの賭けは見事に奏功し、以来、持ち株比率を高めてもいる。そして、中国の陰で苦闘する高齢化国家の日本にとって、望みうる最高の明るい材料を提供している。
94歳のバフェットはこのほどバークシャーの最高経営責任者(CEO)を退く意向を表明したが、バークシャーが日本の商社株を手放すつもりがないことを明確にしている。後任のグレッグ・アベルは、バークシャーがこれらの株式を50年、あるいはそれ以上保有し続ける可能性にも言及している。
バフェットは日本に置き土産を残してくれた。日本の政財界のリーダーたちはそのメッセージに耳を傾けているだろうか。たしかに、一個人や一企業の投資ポジションが610兆円規模の日本経済のゲームチェンジャーになることはないだろう。しかし、それがバフェットとバークシャーとなると話は少し違ってくる。
バフェットによる「日本株式会社」への投資がもたらした「ハロー(後光)効果」は、安倍晋三政権にとって最高の瞬間のひとつだった。安倍は2012年12月に2度目の首相に就いた。当時、安倍率いる自由民主党は、中国への劣等感に苛まれる日本経済を活性化させるべく、彼が掲げた華々しい計画のおかげで政権に返り咲いたばかりだった。
安倍は縦割り行政の打破、生産性の向上、労働市場の改革、官民両セクターでの能力・業績主義の推進、女性へのエンパワーメント、東京を再びアジアの金融センターにすることなどを約束した。
しかし、安倍はその仕事のほとんどを日本銀行に丸投げした。その日銀の超緩和政策は円を30%下落させ、景気を押し上げ、日経平均株価を高騰させた。



