人間がもつ「非合理」と「フューチャーヴィンテージ」

KiNG|アーティスト、デザイナー、プロデューサー
アーティストでありながらデザイナー、プロデューサーとして活動するKiNGは、彫刻で培った認知把握力、技術力、想像力と、現代アートによる問題提起、新たな提案、共感・価値創造をベースに独自のメソッドを確立してきた。これまで「ウェアラブルスカルプチャー」というファッションとアートの融合による斬新な衣装作品を、アーティストやミュージシャンに提供してきた。
近年、ビジネス界でのアートへの関心は高い。KiNG曰く、「アーティストは、まだ誰も感じていない潜在的事象を具現化する仕事」。だからこそ、誰もが気づかないニーズや兆しを得ようと、経営アプローチにアートの力を取り入れる動きがあるのだろう。であるがゆえに、ビジネス界は今、アート界で起きている変化についても知る必要があるという。
「これまでアーティストは社会や体制、多数派に対するアンチテーゼの役割を担ってきました。それは社会が平和という前提があったからかもしれません。ですが、AI(人工知能)の進化に伴い、『人間の役割』への不安、社会変化への恐怖心が台頭するなかで、アーティストの役割も変わってきていると感じます。個人に対して社会の安定、安心感を与えるという『新しいアートのカタチ』の提示が必要になってきているのです」
これまでの見つけづらい答えやヒントを探すというだけではなく、不確実性が高く、フラジャイル(脆い)な社会を持続的にするための「機能補完」としての意味合いも求められているのではないか、と考えているという。それは、これまで立ち向かうはずであった主流の社会や経済が脆くなるなかで、散り散りとなってしまった「破片」を寄せ集め、再構築していく役割とも言い換えられる、とも指摘する。
そして、それは過去や未来との接続という観点にも通じるとKiNGは考えている。例えば、生成AIは散り散りになった過去のデータの集積といえるが、論理的かつ合理的な再構築であるがゆえに、従来の経済が担ってきた役割の延長線上に過ぎない。KiNGは、「アート手法を使う意味は、指数関数的飛躍の非合理をつくりだすこと。合理をぶっ飛ばすことです」と話すように、世にまだ存在しない「非合理」を人間自らが創発する意義や役割がさらに大きくなると考えている。
それは「消費」という概念にも通じる話だ。現在、Z世代、α世代など、若い「新しい消費者」が現れるなかで、消費はかつてのような所有欲や自身の満足だけでなくなった。「応援」「信頼維持」「企業への称賛」といった多岐にわたる内発的動機に基づいている。これらの変化は、「消費=使ってなくなる」という意味合いが薄れてきていることを指し示している。こうした変化にいかに対応すべきか。KiNGは次のように話す。
「私は消費者としてもコレクターとしても、さらには供給側のつくり手としても、『フューチャーヴィンテージ』(中・長期的類型型理解促進活動)という言葉を意識しています。この言葉を基盤に何かをつくりだし、消費できるのは人間だけですから」
産業革命以来、約260年間続いてきた従来の消費経済の姿とは異なり、人間がつくり出す非合理と未来のヴィンテージへの関心が「新しい消費」を生み出し、支えていく。「新時代の消費」はこんな意識から始まるのかもしれない。
この旅のテーマは「これからの消費」。4人の取材を通じて見えてきたのは、「消費」という言葉のもつ意味が変わろうとしていることだ。大量に生産し、費やして消していくという「消費」は、どうも未来にはそぐわない。その言葉の意味は、「体験」「活用」「循環」といった具合に、多義的にとらえられていくだろう。そして、彼らが大事にしていたのは、従来の延長線上で消費者分析の深度を深めることではなく、むしろ外側に目を向けることだった。未来の消費者の心をつかむためには、これまでの常識にとらわれない観察眼が必要となる。


