道路も舗装されていない不便な場所だったが、08年にテイスティングルームを開設し、ピノ・ノワールとシャルドネに特化したワイン、地元食材とのペアリングコースなどで徐々に人気を獲得。13年には南アフリカでもっともイノベイティブなワイナリーに選ばれ、その後も多数の賞を受賞。24年には「ワールド・ベスト・ヴィンヤード」で世界3位、アフリカ1位に輝いた。現在、テイスティングルームには国内外から1日数百人が訪れる。
マーケティングも担当するオーナーのキャロリン・マーティンの解説を受けながら、筆者もワインと食事のペアリングランチを体験した。
抗炎症ダイエットに基づいたメニューで、プラントベースの選択肢もあり、価格は約1500ランド(約1万2000円)。テイスティングでは、貝殻を耳に当て「波の音」を聴きながらワインを味わう、布の質感とともにワインのテクスチャーを感じるなど、五感と脳を刺激するユニークな仕掛けが用意されている。記憶に残る体験を通じた顧客との深いつながりこそが、口コミの評判を広げ、リピーターを生む鍵を握る。
クリエイションの価値の源泉は、土地との深いつながりにある。ウイルスフリーのブドウ(ウイルス感染したブドウの木は枯れやすく、質も下がる)をバージンソイルに植える、南アフリカワイン生産者の代表・支援組織「Vinpro(ヴィンプロ)」と連携して気候変動に対応する品種の研究に投資するなど、農業への直接投資が品質向上につながっている。また、80キロ圏内での食材調達、地域住民の雇用と育成といった取り組みも、地域社会と経済の健全な発展に寄与している。
さらに「ペブル・プロジェクト」という非営利団体を通じて、14年から地域の子どもや若者にも支援を広げる。19年には閉校した地元小学校に代わり、生後9カ月から7年生までが通える学校を設立し、送迎や給食、健康管理も実施。地域の若者向けの職業訓練施設支援も行い、現在は卒業生4人をスタッフとして雇用。顧客がペブル・プロジェクトに寄付するケースもあるという。
こうした地域・自然・人とのつながりを大切にする姿勢が、「サステナブルなワイナリー」としての評価を支え、ブランドの認知と価値向上にもつながっている。


