米旅行予約サイト運営会社エクスペディア・グループは5月8日、2025年第1四半期(1月〜3月)の売上高が、前年同期比3.4%増の29億8800万ドル(約4330億円)と市場予想を下回り、同社の売上目標にも届かなかったと発表した。これを受け、同社の株価は9日朝に8%急落した。
エクスペディアのアリアンヌ・ゴリンCEOは投資家向け説明会で、「米国の国内および海外からのインバウンドの旅行需要が予想を下回ったことが、目標の未達の原因だ」と述べて、消費者マインドの悪化に言及した。
エクスペディアは、事業の3分の2を米国市場に依存しているが、同社によると第1四半期の米国へのインバウンド旅行は前年同期比で7%減少したという。また、特にカナダからの予約件数は30%減と大きく落ち込んだ。ゴリンCEOは、「4月は3月よりもやや軟調だった」と述べて、第2四半期の見通しについても市場予想以下に引き下げた。さらに、通期の業績見通しも下方修正した。
「エクスペディアの事業の米国市場への依存度の高さは、現在の情勢を踏まえると不利に働く」と、JPモルガンのダグ・アンマスは9日朝の投資家向けノートに記した。
「米国へのインバウンド旅行を取り巻く状況は厳しく、今後も困難な展開が続くことが予想される」と、パイパー・サンドラーのトーマス・チャンピオンは8日夜のリサーチノートで述べて、「さらに悪化する可能性がある」と付け加えた。
旅行業界を襲う「トランプ・スランプ」
米国各地の観光当局も、旅行需要の減少を報告している。ラスベガスの観光局によると、第1四半期のラスベガスへの訪問者数は前年同期比約7%減の970万人に落ち込んだという。さらに、2024年に過去最高となる1570億ドル(約22.8兆円)の観光収入を記録したカリフォルニア州では、2025年の国際観光客数が9.2%減になると予測されている。ギャビン・ニューサム州知事はこの状況が「連邦政府の経済政策と迫り来る『トランプ・スランプ』に起因するものだ」と声明で述べている。
米国旅行協会(USTA)によると、2024年の米国内の旅行者の直接支出額の合計は1.3兆ドル(約188兆円)に達し、これにより2.9兆ドル(約420兆円)の経済効果が生まれ、1500万人以上の雇用が支えられていたという。
旅行業界において「トランプ・スランプ」という声が上がるのは、これが初めてではない。トランプの1期目の政権下においても、米国へのインバウンド旅行客数は減少し、2017年の最初の7カ月間で4%減となっていた。米国国立旅行観光局のデータによれば、当時も観光業界はこの減少を「トランプ・スランプ」と呼び、トランプの米国第一主義や一部の国に対するビザ要件の厳格化をその原因に挙げていた。
しかし、2度目のスランプは、1期目よりもはるかに深刻だ。今年3月の時点で、米国に向かうカナダ人の自動車旅行は前年から32%減少しており、航空便での渡航者も13.5%減少した。さらに、欧州からのインバウンド旅行客が17%減、南米からが10%減と、他の地域からの旅行客も軒並み減少していると、米国商務省が報告している。
USTAは、海外からの訪問者が1%減るごとに、米国にもたらされる旅行関連の外貨収入が年間で18億ドル(約2610億円)減少すると試算しており、この傾向が続けば、今年は少なくとも210億ドル(約3兆円)の観光収入が失われる可能性があると警告している。



