政治

2025.05.12 10:00

核兵器を放棄したウクライナが降伏すればロシア周辺国が核保有を検討も

ロシア首都モスクワの赤の広場で開かれた戦勝80年を祝う軍事パレードで走行する軍用車両。2025年5月9日撮影 (Sefa Karacan/Anadolu via Getty Images)

1991年のソビエト連邦崩壊によってウクライナが独立した時、同国は2000発近い核弾頭を搭載したソ連製ミサイルも継承した。これは世界最大級の核保有量だ。しかし、ウクライナには当時、敵はおらず、侵略を企てる国への抑止力となる核兵器も必要ないように思われた。

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共産主義者から改革派に転じたロシアのボリス・エリツィンは、数十年にわたる共産党の一党支配を平和裏に覆した民主化勢力の先頭に立ち、初代大統領として新生ロシア連邦を率いた。エリツィン元大統領には旧ソ連を構成していた共和国に侵攻する意図はなかったことから、ウクライナは、ロシア、米国、英国と、核兵器の自主的な放棄を巡る協議に入った。ロシア、米国、英国は、ブダペスト覚書と呼ばれる4カ国間の協定で、ウクライナの国境と独立を守ることを誓約。米国はウクライナの主権を守る安全保障も約束し、それと引き換えに同国が保有していた終末兵器である大陸間弾道ミサイル(ICBM)を排除した。

ところが2022年、ロシアがウクライナに電撃作戦を開始して以降、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、核兵器を自主的に放棄した自国のかつての決定を公に非難してきた。同大統領は昨年10月、世界が注目する欧州理事会の会合で、包囲されたウクライナが国家としての存続を維持するためには、核兵器を取り戻すか、北大西洋条約機構(NATO)に一刻も早く加盟する必要があると宣言した。

これを受け、「ツァーリ(皇帝)」の異名を持つロシアのウラジーミル・プーチン大統領は直ちに「危険な挑発行為」だと非難。「この方向に一歩でも踏み出せば、それ相応の反応が返ってくるだろう」とけん制した。ロシア国営RIAノーボスチ通信によれば、ロシアのミハイル・シェレメト議員は、西側の核保有国に対し、「ウクライナのテロリスト政権に核兵器を譲渡することは、われわれの世界を終末に導くことになる」と警告を発した。

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だが、かつて駐ウクライナ米大使を務めたスティーブン・パイファーによれば、ゼレンスキー大統領の狙いは、実際に秘密裏に核兵器開発に着手するより、むしろNATOにウクライナの加盟を促すことにあったようだ。米スタンフォード大学国際安全保障協力センターの学者でもあるパイファー元大使は、筆者の取材に対し、NATOはウクライナの加盟に向けた具体的な行動計画を示すべきだと語った。その上で、ウクライナがNATOから疎外されたままでいると、ロシア帝国を復活させようとするプーチン大統領にとって、永遠に魅力的な標的であり続けるだろうと示唆した。

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翻訳・編集=安藤清香

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