材料イノベーションが先行、「GaN半導体」は救世主となるか?
提示されているソリューションには、例えば「窒化ガリウム(GaN)」と呼ばれる化合物を用いた半導体がある。
GaNは、エネルギー効率が高く、電力損失が非常に少ないという特徴がある。また、熱伝導率が高いため、放熱性にも優れている。そのためGaNは、シリコンに代わる有望な素材とされており、GaN半導体は従来のシリコンを用いたトランジスターよりも、電力変換効率を最大40~50%向上させる可能性がある。これによってより小型なデザインが可能となり、たとえばテキサス・インスツルメンツは、GaNベースの製品として、従来の半分のサイズで同等の電力効率を持つスマホ向け電源アダプター用パーツを展開している。
欧州のGaNスタートアップに目を向けると、過去5年間で合計700億ドル(約10兆円)を調達しており、GaN Systems、Cambridge GaN Devices、Hexagemなどがこの分野のイノベーションを牽引している。
このことから、環境面での大きな恩恵と市場機会が存在していると見なされており、GaNの広範な採用により、2050年までに年間最大26億トンの二酸化炭素(CO2)の排出削減が可能になると見積もられている。
製造やサプライチェーンに課題
ただし、GaN半導体の製造やサプライチェーンには課題がある。シリコンカーバイド(SiC)などの他の「ワイドバンドギャップ」に位置づけられる半導体材料も同様の課題を抱えているが、GaN半導体は製造コストが高く、結晶欠陥が発生しやすく、サプライチェーンも成熟していない。
また、とりわけ原材料のガリウムが地政学的なボトルネックになりえる。世界のガリウム供給の約98%は中国に依存しており、このことが懸念を引き起こす。
こうした事情により、GaNの生産規模を短期間で拡大するのは困難であり、それが効率の向上効果の早期実現を制限している。当然ながら、これらの課題は時間とともに克服される可能性があるが、それが「いつになるのか」は不透明だ。
ハイテク大手は、化石燃料や原子力による発電を選択
そのため現時点では、サプライチェーン全体の再構築を伴うような技術革新よりも、ハイテク大手は短中期的に、AIの加速する進化に対応するために、化石燃料や原子力による発電に頼るという選択肢が現実的だ。たとえば米国では、閉鎖予定だった石炭火力発電所の稼働の継続が決定された例もあり、今後の数年で200基以上の天然ガス発電所の建設計画が進んでいる。


