サイエンス

2025.05.11 17:00

ホホジロザメ数百頭が毎年集結する太平洋の「謎スポット」

Martin Prochazkacz / Shutterstock.com

PSATと呼ばれるタグ(ポップアップ衛星アーカイブタグ:装着させたタグから、データを人工衛星に送信する発信器)を使った高解像度データにより、この海域では、小型遊泳生物(小型魚、イカ、クラゲなど)の大規模な日周鉛直移動(diel vertical migrations:1日のなかで規則的に生息深度を移動させる現象)が起こっており、これに呼応するように、海面のはるか下で、深部クロロフィル極大層(Deep chlorophyll maximum:植物プランクトンのバイオマスの指標であるクロロフィルの量が最大になる層)が生じることも明らかになった。一見したところ不毛に見えるこの海域の謎を解くための手がかりが得られたのだ。

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進展はあったものの、研究者たちはいまだに根本的な疑問に頭を悩ませている。ホホジロザメがカフェに集まる主目的は、採食なのか、それとも繁殖なのか? 位置情報タグ研究からわかった、オスに偏った性比の原因は何なのか? 年ごとの海洋学的変動は、ホホジロザメの集合になんらかの影響を与えるのか?

ホホジロザメは沿岸部に定住していると考えられていたが……(Shutterstock.com)
ホホジロザメは沿岸部に定住していると考えられていたが……(Shutterstock.com)

個体追跡による発見と新たな知見

カフェを示唆する証拠が最初に浮上したのは1990年代後半のことだった。ホホジロザメの衛星タグ研究に乗り出した、スタンフォード大学の生物学者バーバラ・ブロックが、ホホジロザメは沿岸部に定住しているという仮説を覆す、外洋への長距離移動を明らかにしたのだ。

ブロックの研究チームは、カリフォルニア沿岸にあるアニョ・ヌエボ島やファラロン諸島の近海に生息するサメに、PSATや、SPOT(Smart Position or Temperature Transmitting:スマートポジションまたは温度送信)音響タグを装着し、位置情報と高解像度の深度・温度情報を収集した。

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2018年、米国海洋大気庁(NOAA)の海洋探査局が、調査船「RVファルコール(RV Falkor)」での共同研究に参加した。回収したPSATを航行ビーコンとして利用し、遠隔操作潜水艇(ROV)、自律型水中グライダー「スローカム」(Slocum)、洋上ドローンを投入して、海面下クロロフィルやその他の海洋学的パラメーターのマッピングを実施した。

こうした多様なプラットフォームを用いたアプローチにより、衛星では捕捉できない海の深部における植物性プランクトンの大発生と、100種以上の生物からなる豊かな中深層群集の存在が明らかになった。すなわち、ホホジロザメのような大型の外洋性捕食者を支えるのに十分な食物連鎖があることが判明し、「外洋は生産性が低い」という前提が覆されたのだ。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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