インタビューを終えて
経営の環境をつくる「社会のルール」は、受け入れるだけのものではない
「いいルールをつくるほうが先」──これが優れたコンサルタントなのか、と私が感じた言葉だった。
その日私は東京・赤坂の事務所を訪れていた。今回の職業道は、政策コンサルタント。社会のルールや法律の課題を整理し、あるべき姿に修正する。ルールメイキングの専門家だ。
そのなかでも別所直哉氏は、ヤフーの法務部門執行役員として、日本のインターネットビジネスの歴史をつくってきた人物だ。例えば今、日本の政治家が自由にSNSやインターネットで発信できるのも、彼が前職時代に取り組んだ公職選挙法の改正によるものだ。ほかにも債権法の約款、古物営業法など、彼のこれまでの成果は、私たちの普段の生活、インターネットサービスに多く潜んでいる。一方、政策コンサルタントという仕事を聞いたことがない人も多いだろう。
弁護士や裁判官、検事といった法律の専門家が「すでにあるルールのなかでの法の取り扱い」を行うのに対して、政策コンサルタントは「いいルールをつくるほうが先」と考えて、ルールそのものを変えにいく。法学部で習う考え方は「使い方」だが、「つくり方」は習わない。脳の使い方がそもそも違うのだ。
彼のクライアントは、大企業の法務部はもちろん、スタートアップに投資するVCなどさまざま。優れた政策コンサルタントは、相談内容を整理し、行政庁・政治家・メディア・研究者、どこにもっていけば、最も効果的にルールを変えられるかを考える。まるで、社会全体を巨大なパズルととらえて、適切なピースをはめていくような仕事だ。
取材中盤、私は素朴な質問をした。「ヤフーのような巨大なIT企業にとって政策コンサルやロビイングが必要な理由はわかります。だから経営陣も、法務部門への期待値が高かったのでしょう。一方で、普通の企業や経営者にもロビイングは必要でしょうか?」と。
彼はこう返した。「もちろんです。経営の環境をつくっているものは、ルールですから」と。私はこの言葉を聞いて、自分自身が普段からとても狭い枠でしか経営というものをとらえていないかを痛感させられた。「社会のルールは受け入れるしかない」と思い込んでいたからだ。そして、政策コンサルタントの仕事の本質がここにあると感じた。
経営とは仕組みやシステムづくりだと言われるが、彼の言葉を聞いて、法律すらも、人や組織を生かすための仕組みやシステムとひと続きなのだと思えた。

北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役CSO。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『仕事の教科書』ほか。近著は『採用の問題解決』。


