エコシステム

2025.05.09 17:45

日本発のスタートアップ関連人材養成機関「11KS」創設者の育成論

━━11KSを設立しようと思われた経緯について教えてください。

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フィル・ウィックハム(以下、ウィックハム):私は子供の頃から日本に興味がありました。大学を卒業後、1989年に来日し、いくつかのプロジェクトに関わったのち、会社を創業すると、それがプリンストン・レビューと合併しました。同社で働いた後、ドキュメンタリー映画制作会社を立ち上げました。

こうして2つのスタートアップを起業したわけですが、現実として、何もわからずに始めた最初の事業が成功し、自信をもって始めた2つ目の事業は失敗に終わりました。この経験から、「イノベーションを成功させるには何が必要なのか?」という世界観が私の中で形成されたのです。

無知こそ最良の道というのは、私にはどうも納得できませんでした。そこで、「成功するスタートアップのDNAとは何か?」というテーマを大学院で研究しました。その研究を通じて、「Kauffman Fellows Program(カウフマン・フェローズ・プログラム)」(編集部註:ベンチャー投資業界およびイノベーション分野における次世代リーダーの育成を目的としたリーダーシップ開発プログラム)に第一期生として参加することになったのです。

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やがて、ベンチャー投資会社(VC)のJAFCO America Venturesで働く機会を得たのち、JAFCOに移ると、起業家が日本に進出するのを支援するための製品・サービスをつくろうと試行錯誤し始めました。それが、中村幸一郎と共同創業した米VC「Sozo Ventures」につながっています。

大学院での研究とカウフマン・フェローズ・プログラムの影響から、並行して教育活動にも積極的に関わっていました。「なぜ、教育にそんなに時間を費やすのか?」と、よく周りから言われたものです。理由は単純に楽しかったからです。それに、教育イベントには最高の人たちが集まると実感していました。予想もしなかったようなものが生まれるのです。良い案件だったり、出会いだったり。その結果、「イノベーションとは、教育である」という結論に至りました。

実際、同じものですよ。違いがあるとすれば、同じ業界で働いた時間が長いほど、じつは自分の知識が驚くほど少ないことがわかってくる点です。若い頃は、自分には充分な知識があり、だいぶわかってきたと錯覚しがちです。ところが私のように30年も経験を積むと、ある程度勝手がわかっても、まだ学べる量が膨大であることに気づかされます。業界歴が長いほど、「学生」に変わっていくのです。だから研究をしていないときは、誰かを手助けする「教育モード」でいるべきなのです。

一般論では、大学などで講義を引き受けようとすれば、同僚から「案件の成立を優先すべきだ」と反対されるかもしれません。しかし、コウ(前出のSozo Ventures共同創業者で同社シニア・マネジング・ダイレクターの中村幸一郎氏)は私と極めて似た考えかたをしています。私たちのどちらかが何かに取り組みたいと思えば、互いに口をはさむことはありません。そこで私たちは実験を始め、それが「11KS」の設立につながりました。

それも自然な成り行きです。書籍であろうと教室であろうと、そのすべてが同じ知識体系から派生しているわけですから。1960年代に米バブソン大学で生まれ、起業家精神と資本形成(Capital Formation)を中心に発展してきた知識体系のことですよ。面白い人たちを集めてイベントを開催しよう、本を書いてみよう、講義をしてみよう。何でもいいからとりあえずやってみよう、と。ある段階でコウと私は、こうした活動を運営するための組織を日本に設立し、目的を明確にし、よりテーマ性のある戦略を立てる必要があると感じるようになりました。それが今日に至るまでの経緯です。

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文 = 井関庸介 写真 = 能仁広之

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