インドに抜かれたとはいえ、名目GDPで世界5位の日本。この10数年でスタートアップの数は増大したが、「ユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)」の数は8社。名目GDPの規模に比して少なく、米国(690社)、中国(162社)、ドイツ(31社)、インド(68社)と比べると寂しい数字だ。また、英国(55社)やイスラエル(23社)、韓国(13社)にも後れをとっている(出典:CB Insights、2025年1月現在)。
フィル・ウィックハム(写真)は2024年10月、NPO(非営利団体)の「11KS(イレブンケーエス)」を立ち上げた。日本のスタートアップエコシステム(生態系)の高度化とグローバル化に貢献できる国内外の人材を養成するのが目的で、教育プログラムや研究、カンファレンスなどを通じて、起業家やベンチャー投資家、大学関係者、国・地方自治体の公務員を国際的に通用する高度専門人材に育てたいという。
起業経験をもち、米ベンチャー投資会社Sozo Venturesの共同創業者であるウィックハムは、日米のスタートアップシーンの最前線で活動してきた。自著『2032年、日本がスタートアップのハブになる:世界を動かす才能を解放せよ』(ニューズピックス刊)の題名からもわかるとおり、課題があることを認めながらも日本のスタートアップエコシステムの展望について楽観的である。
11KSの名は、「地球重力圏の限界や月軌道を飛ぶ探査機などが大気圏に突入する速度『11 km/s(秒速11km)』を基とし、日本から世界に飛び出すリーダーを育てる」という思いに由来する。だがウィックハムが本インタビュー内で触れているとおり、「打ち上げ角度が少しずれただけで、ロケットは月への軌道から外れてしまう」。
彼が「イノベーター」と呼ぶ、起業家やベンチャー投資家、教員などの関係者は、スタートアップや新規事業を立ち上げるにあたってどういった点に注意すべきなのか。今回、ウィックハムに11KS設立の狙いとそのフレームワークへの質問を中心に、日本の起業やベンチャー投資シーンが抱える課題と可能性について聞いた。