スペイン全土で先週の4月28日、大規模な停電が発生し、市民が暗闇に陥った。停電は隣国のポルトガルやフランスの一部にも及んだ。何時間にもわたって鉄道などの主要な社会基盤が混乱し、人々の生活が中断され、スペインの電力系統の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。調査は現在も続いており、正確な原因はしばらく判明しないかもしれないが、政治的な非難合戦はすでに始まっている。
とはいえ、指をくわえて見ているだけでは明かりはともらない。私たちは今回の停電を、警鐘として受け止めなければならない。
スペインの電力網は欧州の他の国々と同様、20世紀向けに設計されたものだ。21世紀の現代では急速に電化が進み、電力構成が再生可能エネルギー主導に移行しつつあり、人々は気候変動やサイバー攻撃の脅威といった新たな危険にさらされている。そうしたなか、かつての電力網は限界を超えている。
こうしたリスクは、スペインにとって目新しいものではない。同国東部バレンシアで昨年発生した壊滅的な洪水に加え、毎年のように繰り返される夏の山火事や干ばつは、この国の脆弱性を浮き彫りにしてきた。
他方、スペインでは電力系統の脱炭素化が進み、近隣諸国と比較しても電力料金が低い。スペインはそうした点から、欧州でも模範となる成功例だと考えられてきた。同国では電力構成において再生可能エネルギーの占める割合が大きいことから、多くの多国籍企業が拠点を置いている。それが、同国の経済成長の原動力となっている。政治的な争いをする代わりに、スペインはすでに国民の生活や経済に恩恵をもたらしているエネルギー革命を引き続き主導していくべきだ。
今回の大規模停電を受け、スペインのペドロ・サンチェス首相は議会で次のように演説した。「われわれは、2018年から計画してきたエネルギー指針から1ミリたりとも足を踏み外すつもりはない。再生可能エネルギーはわが国の電力の未来であるだけでなく、唯一にして最良の選択肢だ。スペインを再工業化する唯一の方法なのだ」
スペインの環境に優しい電化を継続するためには、電力網の強化が必須となる。国境を越えた相互接続の拡大と蓄電による電力網の柔軟性加速、新たな市場設計という3点が優先事項だ。
国境を越えた相互接続により、電力系統の安全性と回復力が強化される。これは設備に負荷がかかった際の緩衝装置として機能するとともに、リアルタイムでの電力の輸出入が可能になる。また、日々や季節ごとに変動する再生可能エネルギーの発電量のバランスを取ることにも役立つ。
ところが、現在のスペインは送電の面で「陸の孤島」となっている。スペインとポルトガルが位置するイベリア半島と欧州の他の地域との電力相互接続容量の割合は、わずか2%に過ぎない。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、2030年までに達成すべき目標として15%を定めているが、それを大きく下回っている。
スペインとフランスを結ぶビスケー湾海底の電力相互接続計画は長らく遅れており、最近ようやく前進しつつあるものの、完成には数年かかる見通しだ。スペインがEUの目標を達成し、将来的な電力網の緊急事態で孤立しないようにするには、さらに多くの努力が必要になる。



