欧州

2025.05.09 13:00

マルタのゴールデンパスポート制度は「違法」、EU最高裁 ロシア人富裕層も利用

マルタのパスポート(Getty Images)

マルタのパスポート(Getty Images)

地中海に浮かぶ島国マルタが外国人富裕層向けに運用している「ゴールデンパスポート(旅券)」制度を巡り、欧州連合(EU)の最高裁に当たる欧州司法裁判所は、EU市民権に関する規則に違反するとの判決を下した。

外国人がマルタに60万ユーロ(約9800万円)以上を投資することでEU市民権を「購入」できる同制度は、かねてよりEUの執行機関である欧州委員会から厳しく批判されていた。同委員会は2022年、安全保障上の問題を理由に、同制度を巡ってマルタを提訴していた。

同国は「ゴールデンパスポート」制度を通じ、ロシアや中東などの実業家や有名人、スポーツ選手といった裕福な外国人にマルタの市民権を付与し、ひいてはEU市民権を取得できる道を開いている。これにより、同国は多額の収入を得てきた。

欧州のニュース専門放送局ユーロニュースによると、キプロスが2020年に、ブルガリアが2022年にそれぞれゴールデンパスポート制度を廃止した後、マルタは同制度を維持するEU最後の国となっていた。

EU市民権は「売り物ではない」

裁判で、欧州委員会は、ゴールデンパスポート制度は外国人にマルタの市民権を取得する機会を与えるもので、同国に家族や家がなくてもEU域内で労働する権利を与えるものだと指摘した。「欧州委員会は、当該加盟国との真の結び付きがないまま、あらかじめ決められた金額の支払いや投資と引き換えにEU市民権を付与することは、EU法に違反すると考えている。投資家市民権制度はEU市民権の本質を損なうものであり、EU全体に影響を及ぼすものだ。EU加盟国の国籍を有するすべての人は、同時にEU市民でもある。EU市民権を取得すると、自動的にEU域内の自由な移動や労働の権利、欧州議会選挙や地方選挙での投票権と被選挙権が与えられる。ロシアによるウクライナ侵攻により、こうした制度に内在する危険性が改めて浮き彫りになった。欧州委員会は、投資家市民権制度を現在も運用している加盟国に、これを直ちに終了する必要があると警告する」

マルタのゴールデンパスポート制度を巡っては、ロシアなどの制裁対象者が渡航禁止措置を回避することを可能にしているとして、EUの監視の対象となっていた。

EU最高裁がマルタのゴールデンパスポート制度を「違法」と判断

ルクセンブルクに本部を置く欧州司法裁判所は4月29日、原告の訴えを認めた。その上で、マルタのゴールデンパスポート制度は「EU加盟国の国民としての地位の商品化、ひいてはEU市民権の商品化」に相当すると判断。EU加盟国間の「信義誠実と相互信頼」を侵害し、「EU条約に由来する基本的地位の概念、およびEU条約第4条3項にうたわれている誠実な協力の原則と相容れない」として、違法との判決を下した。裁判所は、マルタがゴールデンパスポート制度を運用することでEU条約に基づく義務を履行していないとし、同国に訴訟費用の支払いを命じた。

この判決を受け、マルタ政府は裁判所の決定に従い、法律を改正すると発表。ただし、同制度を通してすでに同国の市民権を取得した受給者は、過去にさかのぼって取り消しを受けるなどの影響を受けることはないと説明した。マルタ政府は次のように述べた。「近年、この枠組みを通じて創出された富を誇りに思う。この枠組みにより、現在と将来の世代の要求を満たすための投資と貯蓄に向けた国家基金の設立が可能になった」

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翻訳・編集=安藤清香

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