ゴールデンパスポートの背後に潜む安全保障上の懸念
世界の汚職を監視する非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルは、「汚職者がEUへの道を購入するための扉を1つ閉じることになる」として、今回の欧州司法裁判所による判決を歓迎した。同NGOのマイラ・マルティーニ代表は、次のように述べた。「今回の判決は、加盟国がEU市民権を商品化する、無謀なゴールデンパスポート制度を運営することはできないと証明するものだ。こうした制度が世界中の汚職者やEU内のその他の疑わしい個人に安全な避難場所を与えてきたことは、数え切れないほどの事例で明らかになっている。今回の判決は、マルタがEU市民権を販売するのを阻止するだけでなく、他の加盟国が同じことをするのを防ぐことになるだろう」
ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以降、マルタはすでに同制度を通したロシア人とベラルーシ人に対する市民権の付与を停止していた。だが、英紙フィナンシャルタイムズは、この禁止措置が発効する以前に、ウクライナ侵攻との関連が疑われ制裁対象となったロシア人実業家にマルタの「『黄金の』パスポートが販売されていた」と報じている。これにより、EUの在留資格を得ることで、ロシア人富裕層が制裁を逃れ、マネーロンダリング(資金洗浄)の門戸を開くことができたのではないかと疑われている。
「ゴールデンビザ(査証)」という、投資をした人に市民権ではなく居住許可を与える限定的な制度を設けている国もあるが、EUは現在、この制度に対しても監視の目を光らせている。ポルトガルは2023年、不動産投機を抑制するため、ゴールデンビザ制度の不動産投資の条件を撤廃し、制度自体を縮小した。オランダもこれに続き、2024年1月にゴールデンビザ制度を廃止。スペインも不動産投資家向けの制度を終了する手続きを進めている。
汚職者の安全な隠れ家
一方、米国ではドナルド・トランプ大統領が、同国に500万ドル(約7億3000万円)を投資する外国人富裕層向けの「ゴールドカード」と呼ばれる特別移民ビザの導入を発表し、物議を醸している。米ブルームバーグ通信は、「トランプ大統領が外国人富裕層を米国に誘致しようとしている中、欧州司法裁判所の判決次第では、EUも外国人富裕層の避難所になる可能性があった」と報じ、両者の方向性の違いに焦点を当てた。
欧州委員会のマルクス・ラマート広報担当官は、「ゴールデンパスポートやゴールデンビザといった投資家移民制度に関する欧州委員会の立場は当初から極めてはっきりしている」とした上で、次のように明言した。「EU市民権は売り物ではない」


