欧州

2025.05.09 09:00

ロシア軍はなぜ「松葉づえ兵」を突撃に駆り出すのか 変わらぬ体質と冷酷な算段

ウクライナ東部ドネツク州ポクロウシク方面で、杖をついてウクライナ軍の陣地へ前進しようとするところとされるロシア兵。X(旧ツイッター)に投稿された動画より

一部のロシア軍人はさらに陰惨な見方を示している。彼らの見るところ、傷の癒えていない兵士は、武器を持てる者なら誰でも何らかの貢献ができるといった理由で再び戦闘に投入されているのではない。そこに働いているのはむしろ、金の論理、どうやれば補償金の支出額を抑制できるかという冷酷な計算だと映る。

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昨年11月にプーチンが署名した新たな大統領令では、ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ対ウクライナ戦争で重傷を負った兵士には300万ルーブル(約540万円)、軽傷を負った兵士には100万ルーブル(約180万円)、その他の外傷を負った兵士には10万ルーブル(約18万円)が支払われるとされた。これは、ウクライナで負傷した兵士全員に300万ルーブルを支給するという2022年の方針から後退している。300万ルーブルというのはロシアの平均年収の2倍以上の額だ。この制度変更は、重傷者を「処分」し、軽傷者のみ回復させる誘因になる。

なぜなら、負傷兵が突撃で戦死した場合、当局は補償金をまったく支払わないで済む可能性があるからだ。たしかに規定では、戦死者の遺族は500万ルーブル(約880万円)を受け取る権利がある(けったいな話だが、ロシアの政府関係者は戦死者の母親に肉挽き機を贈ることもあるという。軍人の犠牲へのぞっとするような報賞だ)。だが、補償金の支払いは実際には保留されることも少なくない。

ロシアのある脱走兵は「行方不明者の場合、家族に金は支払われない。死亡の証明には遺体が必要で、遺体がなければ話は終わり、お気の毒ですがお引き取りください、となる」と米CNNに語っている。

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ロシア軍は遺体を回収しないことが多い。ウクライナ側は北東部ハルキウ州だけで何百体ものロシア兵の遺体を回収しており、ロシア側はこれらの遺体の返還交渉も拒否していると伝えられる。兵士が死亡した際の詳しい状況がわかっている場合でさえ、遺族には行方不明と伝えられることが少なくない。こうした対応をすれば、戦死者数も補償金の支払いも最小限に抑えられる。それに対して、生き延びた重傷兵は国にとって費用がかかる。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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