ロシア軍が負傷兵を「再利用」し、動けるようになったらすぐ前線に送り返しているのは周知の事実だ。指揮官たちは、負傷が危険から逃れる「切符」にならないよう手を尽くしてきた。とはいえ現在は、松葉づえをついた兵士、さらには車椅子に乗った兵士まで突撃に駆り出されるという、極端な事例も見られるようになっている。
こうした異様な現象の背景には何があるのだろうか。一見狂気じみたこの行動もそれなりに筋が通っているのかもしれないが、いくつか異なる説明がされている。
「善いツァーリ、悪いボヤール」
この手の話をウクライナのプロパガンダとして片づけるのはたやすい。しかし、ドローン(無人機)の映像に収められた多数の事例があるばかりか、ロシアのソーシャルメディアにはロシア兵たち自身による訴えも数多く投稿されている。松葉づえをついた兵士らは、とても戦える状態でないのに戦闘に向かわせられているとして、上級の指揮官に介入を懇願している。
第47戦車師団第26戦車連隊の兵士約50人が投稿した動画では、負傷兵らが、通常なら45日間とれるはずの医療休暇なしに戦闘に送り込まれているとロシアのウラジーミル・プーチン大統領に直々に訴えている。ギプスをはめたり、松葉づえをついたりした兵士の姿も見える。
1/ Badly wounded Russian soldiers, some on crutches, are being sent to fight in Ukraine. Russian milbloggers say it is because of huge losses and shortages of personnel, as well as bureaucratic mismanagement and the military's culture of lying to superiors. ⬇️ pic.twitter.com/hhIyLhGwqC
— ChrisO_wiki (@ChrisO_wiki) July 2, 2024
これは、農民たちが「善いツァーリ、悪いボヤール」に支配されていると信じていた、古いロシアの伝統を引きずっている。愛すべき皇帝(ツァーリ)は民衆の幸福を気にかけてくれているはずなのに、その下にいる貴族(ボヤール)たちが貪欲で自分たちに配慮してくれない──。こうした考え方により、民衆は苦しい経験をしていても、本来は善意に満ちたものとして統治体制を信じ続けることができた。20世紀初頭には、変化への圧力が高まるなか、農民たちは皇帝が真実を知ってくれさえすれば苦難を終わりにしてくれると信じて、皇帝に宛てて多数の手紙を送った。
では現在の問題は、「ボヤール」つまり現場指揮官にあるのか、それとも「ツァーリ」すなわちプーチンとその体制にあるのか?



