気候・環境

2025.05.10 16:00

サメの体内を覗いてみると──恐怖を誘うプラゴミ汚染の実態

近年行われたサメの研究により、海洋プラスチック汚染が単なるゴミ問題ではなく、生態系を脅かす深刻な問題であることがわかった。サメの体内に入ったマイクロプラスチックは組織や生殖器の奥深くまで浸透し、繁殖能力を阻害するおそれがある

近年行われたサメの研究により、海洋プラスチック汚染が単なるゴミ問題ではなく、生態系を脅かす深刻な問題であることがわかった。サメの体内に入ったマイクロプラスチックは組織や生殖器の奥深くまで浸透し、繁殖能力を阻害するおそれがある

サメは海洋生態系のバランスを保つ上で重要な役割を担っている。食物連鎖の頂点(あるいは中位)にいる捕食者・サメが他の魚を食べることで海洋生物の個体数が調整され、健全な生態系ピラミッドが維持されるからだ。そんなサメが今、絶滅の危機にさらされている。そもそもサメ類の多くは成長・性成熟に時間がかかり、1度に産む卵や子の数が少ない。さらに近年では、乱獲や生息地の環境悪化も個体数減少に拍車をかける。事実、サメとエイの個体数は過去50年間で71%も減少している。その大きな原因は乱獲だが、拡大を続ける海洋マイクロプラスチック汚染も、サメの生存を脅かすサイレントキラーだ。

マイクロプラスチック(5mm以下の微細なプラスチック片)は、今や海のいたるところで見つかる。その正体はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどで、より大きなプラスチックゴミが分解されたものだ。こういったマイクロプラスチックは、哺乳類、海鳥、海亀、動物プランクトン、魚類など多くの海洋動物の内臓や組織から検出されている。近年行われたトガリアンコウザメの研究では、体内のマイクロプラスチック汚染度が調査された。そこから見えてきたのは、汚染がサメの繁殖に与える影響だ。

トガリアンコウザメは沿岸性の小型種で、インド洋と太平洋の浅瀬に生息する。その大きさと沿岸域という生息環境から、漁業や開発など人間の活動に特に脆弱な種だ。

インド科学教育研究大学バーハンプール校、博士課程のハラダン・ルイダスが率いる研究チームは今年3月、トガリアンコウザメの消化管および生殖腺組織におけるマイクロプラスチックの有無、種類、濃度、そして生殖機能に及ぼす影響についての調査結果を発表した。本研究では生殖状態の評価の際、個体の体重に占める生殖腺の割合を示すGSI(生殖腺体指数)値を採用。GSI値は個体の大きさが考慮されるため、生殖腺の重量のみを基準とした値よりも、繁殖のために費やされる栄養やエネルギーといった繁殖投資の実態をより正確に捉えられる。

研究結果は憂慮すべきものだった。

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翻訳=猪股るー

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