マイクロプラスチックが検出されたのは、採取した水サンプルの実に100%、消化管サンプルの97.9%、生殖腺組織の95%。なかでも最も濃度が高かったのは胃や腸ではなく、生殖腺だった。つまり、マイクロプラスチックは口から摂取された後、体内を通過して排出されるのではなく、生殖器官に蓄積されていたのだ。検出されたマイクロプラスチックの大部分(85%)は繊維で、布地や漁具、包装材に由来すると考えられる。繊維以外に検出されたのは薄い破片などだった。
さらに衝撃的だったのは、メスの生殖腺におけるマイクロプラスチック濃度がオスよりも高かったことだ。また、オスのサメではマイクロプラスチックの濃度が高いほど前述のGSI値が低く、生殖機能の低下に影響を与えていることが示唆された。正確な関連性についてはさらなる調査が必要だが、研究チームによると、過去の調査結果がいくつかの手がかりを示しているという。例えば他の動物を対象とした研究でも、マイクロプラスチックが体内を移動し、血液や細胞に浸透して生殖器官に蓄積したという報告がある。生殖器官でマイクロプラスチックは炎症を引き起こし、ホルモンの分泌を乱して生殖細胞の発達を阻害する可能性がある。
実験動物と海洋生物の両方において、マイクロプラスチックは「テストステロンの減少」「生殖に必要なホルモン分泌の低下」「生殖能力に関わる遺伝子発現の変化」との関連性が明らかになっているが、今回の研究結果は同様の影響がサメにも及んでいるという仮説を裏づけたことになる。また、ラマン分光法(分子組成から物質を特定する技術)により、サメの体内に蓄積されたマイクロプラスチックが主に包装紙や化学繊維の一般的な素材であるポリエチレンとポリアミドであることが特定された。
サメなど食物連鎖の頂点に位置する動物の体内には、有害物質が特に高濃度で蓄積されやすい。サメの場合、汚染された魚を長期にわたって食べることで、体内に有害物質が蓄積されていく。産卵・出産数が少なく、すでに絶滅の危険にさらされている動物群にとって、水質汚染による生殖機能へのダメージは個体数の回復をより難しくする要因となる。
食物連鎖の頂点にいる捕食者の減少は、より深刻な問題の兆候だ。マイクロプラスチック汚染がサメに与える影響を理解することは、私たち人類にとっても重要なことである。サメの減少は海洋全体の生態系に関わる問題であり、今起こっている海洋汚染のつけは、人間を含む未来の世代が払わなければならないからだ。


