6月3日の韓国大統領選に向け、保守系与党「国民の力」は3日、同党の候補に金文洙・前雇用労働部長官を選んだ。韓東勲・前代表は敗れた。ソウルに住む同党の元職員は「わが党は大統領選での勝利を放棄した」と苦々しげに語った。韓東勲氏が尹錫悦前大統領の弾劾を支持していたのに対し、金文洙氏は弾劾に反対していた。元職員は「金文洙氏は保守強硬派の受けはいいが、中間層への広がりに欠ける。何よりも事実上、戒厳令を認めるかのような姿勢は国民に受け入れられないだろう」と話す。
韓国の政治支持層は「保守と進歩(革新)がほぼ3割ずつ、無党派層が4割」とも言われる。前回大統領選のように、通常の選挙であれば、保革の支持率がほぼ拮抗した激戦になる。ところが、今回は、保守が「戒厳令を下した尹氏の罷免」という原罪を背負った選挙だ。民意は当然、保守に厳しくなる。韓国世論調査会社リアルメーターが5日に発表した世論調査結果でも、野党による政権交代を望む声が51.5%で、与党による政権継続を求める42.8%を上回っている。進歩系最大野党「共に民主党」の李在明氏と金文洙氏、保守系野党「改革新党」の李俊錫氏の3者対決で想定した場合、「李在明46.6%、金文洙27.8%、李俊錫7.5%」となった。
なぜ、「国民の力」執行部は勝ち目が薄い金文洙氏を候補に選んだのか。「国民の力」の元職員は「党執行部を牛耳るTK(大邱・慶尚北道)・PK(釜山・慶尚南道)ラインが、勝利よりも党内権力の維持を優先したからだ」と語る。党執行部も今回の大統領選に勝ち目がないことを十分理解している。であれば、26年の統一地方選、28年の総選挙で公認権を握った方が良いと計算した結果だという。ここで、反執行部の韓東勲氏が大統領選候補者になれば、TK・PKラインの発言力は下がり、権力の甘い汁を吸えなくなる。
今後、金文洙氏は、無所属で立候補を表明した韓悳洙前首相と候補の一本化に応じ、場合によっては立候補を辞退するかもしれない。党執行部も「今週末までの韓氏への一本化」を念頭に調整を進める構えだ。党執行部はそれでもかまわない。無所属の韓氏を担いだとしても、「国民の力」内部の権力構図は変わらないからだ。韓氏は全羅北道全州の出身で「初の湖南(全羅道)出身の保守系候補」を売り物にしようとしている。「国民の力」の元職員は「経済危機を乗り越えるために安定を求める中間層が一定数、韓氏を支持するかもしれない」と語る。ただ、上述のリアルメーターの調査結果でも、李在明氏と韓悳洙氏、李俊錫氏の3者対決は「李在明46.5%、韓悳洙34.3%、李俊錫5.9%」で、大きく水を空けられている。