筆者の住むラスベガスでは、何かの記念日にステーキを食べようと思ったら、メガリゾートの高級ステーキハウスも結構だが、「ゴールデン・スティア・ステーキハウス」のようなフランチャイズやホテルに関係のない昔ながらの単独店をお勧めしたい。
同伴者にラスベガス通であることを見せつけられるし、そして、それらの店がその昔マフィアが商談に使ったり、フランク・シナトラなどの有名人が出入りしていたりした店だと、さらに会話にも花が咲いてあなたのポイントが上がる。
ゴールデン・スティア・ステーキハウスは高級店だが、これまで予約を取るのがそれほど難しいわけではなかった。ところが、ここ最近、急激にそれが難しくなったのだ。店のサイトに予約コーナーがあるが、どこをクリックしてもすべて満席だ。おかしいと思って、その他のレストラン予約ポータルサイトへ行ってみるが、結果は同じだった。
何らかの理由によって、老舗が新しい世代にも受け入れられ、人気が高まり売上が増加したのならば、ご同慶の至りだと思っていた。ところが、実情はそうではなく、とんでもないことになっていたことがわかった。
「予約」を売買する新しいIT商売
<もしあなたが、カーボンのスパイシー・リガトーニ・ヴォッカやポロ・バーのベーコン・チーズバーガーを試したいと切望しているのであれば、予約を取るのに数カ月かかり、運も必要になるかもしれない。
しかし、「アポイントメント・トレーダー(AppointmentTrader.com)」というウェブサイトを利用し、数百ドルを支払う覚悟があれば、今夜テーブルを確保できるかもしれない>
これは、2年前の2023年4月、ニューヨーク・タイムズに載った記事の書き出しである。
文脈の雰囲気で感じられるように、アメリカでもっともグルメ情報にこだわるニューヨーク・タイムズは、マンハッタンのレストランなどが高級志向で何カ月も予約が取れない、あるいは事実上予約ができないという状況を取り上げ、「予約」をオンラインで売買する新しいIT商売(仮想マーケットプレイス)を紹介して、記事にしていた。
記事は、一見、客に冷たい排他的な店を実名で挙げて間接的に批判し、この新たな流通システムが格差社会を解決すると言わんばかりの論調だった。多くの転売行為は違法だが、転売規制の厳しいニューヨークでも、禁止の対象は主にスポーツやエンターテインメント業界のチケットにのみ適用されるというのが当時の法曹界の見立てだったようだ。
さて、わが街ラスベガスのゴールデン・スティア・ステーキハウスだが、実はこのアポイントメント・トレーダー のユーザーによる「ダフ屋行為」の標的になっていたことがわかった。