働き方

2025.05.11 08:00

「この人生を選んだのは自分だ」一部のAIスタートアップは週7日勤務を要求

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過激な労働条件の投稿がバイラル化

サンフランシスコのスタートアップ、Decagon(デカゴン)は、顧客対応の電話を処理するAIエージェントを開発している。同社は週6日勤務が決まりではない。それでも、企業文化として定着していると共同創業者のジェシー・ジャンはForbesに語った。ジャンによると、約80名いる従業員のうち最大3分の1が、サウス・オブ・マーケット地区のオフィスに日曜日も出勤しているという。

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この習慣は、ジャンと共同創業者のアシュウィン・スリーニバスが日曜日にオフィスへ来始めたところ、他のメンバーも自然と真似したことで生まれたそうだ。スケジュールはあくまで非公式で、正午くらいに来て自由に出入りしている社員もいる。会議で邪魔をされない対面コラボレーションが大きな利点だという。「『ロケットシップ』には一定の強度の燃料が欠かせないのです。うちのチームはそれを本当に信じています」とジャンは言う。

これまでの創業者たちも初期メンバーに猛烈な労働姿勢を期待していた場合があったが、それをあえて公言する企業は多くはなかった。しかしAIブームの波で、スタートアップ同士の競争がますます激化するだけでなく、大手テック企業がAI機能を取り入れ始めたり、OpenAIやAnthropic(アンソロピック)といった巨頭が新機能のアップデートで新興企業を容易に圧倒する可能性もあり、新参のAIスタートアップは壮絶なレースにさらされている。

この激戦の中、長時間労働はアドバンテージとなりえる。また、「過酷な労働カルチャー」を掲げることで、注目や優秀な人材、そして最終的にはベンチャーキャピタルからの投資を引き寄せやすくなる場合もある。昨年11月、AIコードレビュー企業Greptile(グレプタイル)の共同創業者ダクシュ・グプタがX(旧Twitter)に「当社にはワークライフバランスは存在せず、最低でも週6日勤務が必須」という警告を投稿したところ、バイラル化した。その後、グプタは「私のメール受信箱は2割が殺害予告、8割が求人応募だ」とも投稿している。

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長時間労働とセットの「ハッスルカルチャー」

長時間労働の先例としては、中国の大手テック企業、アリババ、バイトダンス、JD.comなどに広がる「996」(午前9時から午後9時まで、週6日勤務)がある。ギリシャでは昨年、24時間稼働する製造業など特定業種の企業に対し週6日制を認め、労働者には40%の残業手当を義務付ける法律が成立した。韓国でも昨年、サムスンをはじめとする有力企業が管理職に週6日勤務を義務付けている。

シリコンバレーにはこれを表現する特定の呼称はないが、何十年も前から急成長スタートアップの「ハッスルカルチャー」は長時間労働とセットだった。エンジニアが一晩中コーディングして製品を生み出す「ハッカソン」はテック業界のDNAの一部である。Uber(ウーバー)の共同創業者トラビス・カラニックの下では、「よりハードに、より長く、よりスマートに働く」が社是だった。テスラやSpaceXのCEO、イーロン・マスクは週100時間労働を誇示し(ドットコムバブル時代にはエンジニアが週120時間働くことを自慢するケースもあった)、OpenAIのサム・アルトマンは、かつて別のスタートアップで働きすぎて壊血病になったと語ったことがある(後にこれは自己診断だったと認めている)。長時間労働はテック業界に限らず、ウォール街の一部の若手バンカーが週110時間勤務を記録する例もある。

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翻訳=酒匂寛

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