米国時間5月2日、トランプ政権が2026年度の予算教書の概要(簡易版)を発表した。それによるとNASAの次年度予算は、昨年度の248億ドル(約3兆5712億円)から188億ドル(約2兆7072億円)へ24.3%の大幅削減となる見込み。この草案が通れば、有人月探査を目指すアルテミス計画において、超大型ロケット「SLS」と有人宇宙船「オリオン」は、2028年に実施予定のアルテミス4以降中止され、「コスト効率の高い商業システム」に変更される。
また、月周回軌道ステーション「ゲートウェイ」や、火星から試料を持ち帰るMSR(火星サンプルリターン計画)も中止される。さらにISS(国際宇宙ステーション)の予算も5億ドル(約720億円)削減され、長期滞在クルーや輸送機が大幅に低減されることになる。
天文、太陽、地球観測など、科学プログラムの予算も約50%削減される予定であり、その場合、2026年10月以降に打ち上げ予定の赤外線宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン」や、NASAにとって40年ぶりとなる金星探査機「ダヴィンチ」(2029年打ち上げ予定)も中止となる。

一方、有人宇宙探査の予算は約6億5000万ドル(約936億円)増加される予定であり、月探査に70億ドル(約1兆80億円)以上が割り当てられ、火星関連プログラムには10億ドル(約1440億円)が新たに予算化される。これによって米国は、2030年までにヒトを月面に送り込もうとする中国よりも先に月面に戻るとともに、史上初となる有人火星探査プログラムを同時進行する。
かねてから「火星入植計画」を唱えるイーロン・マスク氏は、スペースXのプライベート・プロジェクトとして超大型機「スターシップ」の開発を進めてきた。マスク氏は3月、「スターシップは2026年末、オプティマス(テスラが開発中の二足歩行ロボット)を乗せて火星に向けて出発する。その着陸がうまくいけば有人着陸は2029年に始まるかもしれない、ただし2031年のほうが可能性は高い」と、Xにポストした。今回の予算案が議会を通過すれば、彼の計画はアルテミス計画に組み込まれ、公的予算が付く可能性がある。
また、中国は2030年に無人探査機「天問3号」を打ち上げ、火星サンプルリターンを実現させようとしているが、NASAのMSR(火星サンプルリターン)計画が中止になれば、米国はその試みで中国に先を越されることになる。しかし、史上初の有人火星探査さえ実現すれば、より大きな成果をもって米国の威信は保たれる。