なかでも特に人目を引いたケースとしては、2024年6月に、シンガポールに棲むキングコブラが、自分より小さなキングコブラの個体を生きたまま丸呑みにしている姿が観察された例がある。シンガポールにおいて、キングコブラという種群の中で共食いが確認されたのはこれが初の事例だった。しかもこれは、飢えからくるやむにやまれずの行為ではなく、冷静で明確な意図を持ち、しかも成功裡に終わった共食いだった。
キングコブラでは、共食いはオスが絡むものが多く、なわばりや順位争い、あるいは獲物の不足などを背景として起きる場合もあるようだ。ライバルを捕食する一部の事例に関しては、競争相手を葬り去れる上に、食べ応えのある高タンパクの食事を確保できるという一石二鳥のメリットがあると、爬虫両生類学者は考えている。
以下の動画には、キングコブラが別の個体と戦っている様子が収められている。これはおそらく、なわばりをめぐる争いにおける威嚇行為であり、相手を食おうとしているわけではなさそうだ。
キングコブラに関して、さらに背筋が凍るほど恐ろしいのはその殺しのテクニックだ。獲物に巻き付いて窒息させるという力技に頼る他の大型ヘビとは違い、キングコブラは正確無比に毒を獲物の体内に注入する。獲物を襲い、しっかりと噛むと、その神経系統をシャットダウンさせるに十分な量の神経毒を送り込む。あとはもう、待つだけでいい。
キングコブラの毒は強力で、成体のゾウを死に追いやるほどの威力を持つ。そのため、この待ち時間は決して無駄ではない。これも戦略の一部なのだ。

一部には、キングコブラが噛んだ獲物をいったんは逃し、退却する例も観察されている。これは、獲物の最後の抵抗によって自らの身に危険が及ぶ事態を避けるためで、毒素が完全に効果を発揮したのちに戻ってくるという。
こうした正確極まりない狩りの一部始終が、シンガポール(自然公園があることで知られるマンダイ地区)における別の観察事例で報告されている。この事例では、5m弱のキングコブラが、3mほどのアミメニシキヘビとバトルを繰り広げ、最後には食べてしまう様子が目撃された。
6時間以上にわたる戦いのなかで、このコブラは、噛み付いては退却するというサイクルを繰り返した。ニシキヘビの強力なとぐろに巻き込まれるのを避けつつ、毒素が役目を果たすのを待ったのだ。最も忍耐強く、また残酷な自然の一面が垣間見える光景だった。
キングコブラの世界では、強さを決める要素は、毒素や大きさばかりではない。その強さの根底にあるのは、タイミングや戦略、そして仲間のヘビ、時には近隣の種ででさえも、腹を満たす食事に変えてしまうその非情さだ。