映画

2025.05.03 15:15

映画「今日空」 恋愛模様の核心となる「セレンディピティ」の意味

小西徹(萩原利久)は大学でも孤高を保つ桜田花(河合優実)に惹かれるが©️2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

ある日、小西が学内で見かけたのは、髪を「団子頭」に結った桜田花(河合優実)だった。彼女は誰とも群れることなく、学食ではいつも独りで食事を摂っていた。その個性的な髪型は、小西と同じく周囲から自分を奮い立たせる「武装」のようなものだった。

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桜田花(河合優実)は学食ではいつも1人でそばを食べていたため「ざる蕎麦女」と呼ばれていた©️2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
桜田花(河合優実)は学食ではいつも独りでそばを食べていたため「ざる蕎麦女」と呼ばれていた©️2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

小西は、講義が終わると誰よりも早く教室から出て行く桜田のことが気になっていた。キャンパスでもあまり人が行き交うことのない通路で、小西は勇気を振り絞って桜田に声をかける。ぎこちないやりとりが続いた後に思いがけない偶然もあり、意外にも2人の会話は弾んだ。

意気投合して、頻繁に会うようになった2人だったが、彼女は「毎日が楽しいって思いたい。今日の空が一番好き、って思いたい」と他界した父から教わったという言葉を小西に語る。その言葉は、半年前に亡くなった彼が大好きだった祖母の言葉と同じだった。

周りからは孤立したような大学生活を送っていた小西だったが、友人と呼べる人物が2人いた。1人は学食などでいつも昼食をともにしている山根(黒崎煌代)。もう1人はバイト仲間の「さっちゃん」(伊東蒼)だった。

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小西が一緒に昼食を摂るのは学内ではただ1人、山根(黒崎煌代)だけだった©️2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
小西が一緒に昼食を摂るのは学内ではただ1人、山根(黒崎煌代)だけだった©️2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

さっちゃんは大学のサークルでバンド活動をしていたが、スピッツの「初恋クレイジー」が世界最高の前奏だと言っていて、ことあるごとに小西に聴いて欲しいと勧めるのだった。銭湯では営業終了後の清掃を担当していた2人だったが、一緒に働くうちに、さっちゃんは小西への想いを募らせていく。

一方、小西は、桜田とは大学近くの喫茶店で示し合わせて朝食を摂るようになっていたが、銭湯でのアルバイト中にさっちゃんの前でそのことをにおわせる発言をしてしまう。その夜、アルバイトが終わった後、さっちゃんは小西への熱い想いを長々と告白して、彼の前から去ってしまう。

翌朝、小西はいつものように桜田とカフェで朝食を楽しみ、昼食も一緒に摂ろうと彼女を誘う。しかし、約束した時間に彼女が現れることはなく、夜遅くまで待つが、そのまま連絡もつかなくなってしまうのだった。

この後、思いもよらぬ出来事により物語は一挙に転回していく。前半の甘いトーンで語られていた恋愛模様は、さっちゃんの長い告白を境に意外な局面へと向かっていくのだ。

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文=稲垣伸寿

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