すなわち、第三の道は、「人間」を磨くこと。
リーダーになり、マネジメントの道を歩むようになると、いかに巧みな話術を学び、弁舌爽やかに語っても、部下の心に響かない人物がいることに気がつく。なぜなら、部下が見ているのは、その上司の「言葉」ではなく、上司の人間としての「姿勢」であり、「生き方」だからである。
いや、それは、上司と部下の関係だけではない。顧客や業者との関係においても、それが問われる。
筆者は、若き日に、ある商談で、上司と共に、取引先業者の社長との会合を持ったことがあるが、その社長との会合が終わった後、上司が語った言葉が、いまも心に残っている。
「あの社長は人物だな。この取引、ぜひ進めよう」
尊敬する上司の言葉であったが、当時の未熟な筆者にも、その社長の優れた人間性は伝わってきた。
この「人物」という言葉、最近では死語になっているが、いまも、人生を歩むとき、成長の道を歩むとき、我々が心に刻むべき、大切な言葉であろう。
筆者は、74歳を迎えてなお、いまだ修業中の身、道半ばの身であるが、目の前に聳え立つ「人間成長」という高き山の頂を仰ぎ見るとき、いつも、この言葉が心に浮かんでくる。
人生百年時代。我々は、永き歳月を仕事や職場を変えながら、成長し続けていかなければならない。
その時代に求められるのは、この「仕事を通じて己を磨く」という覚悟であり、いかなる「人間像」を目指して歩むのかという志であろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8800名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp


